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飾り物の価値龍生書林 大場 啓志 |
文学書、それも特に初版本などを中心に取り扱っている書店ならいざ知らず、他の分野の方々にはかなり馬鹿馬鹿しく思える話となりそうで恐縮だが、古本にはこんな世界もあるのかと、暇潰し程度に読んで頂ければ幸いです。 |
この様な、なんらかの事情により作り変えられ、一般に多く流布している以前の帯を元帯と称してマニアは珍重している。 |
十数年前、神保町の山田ビルで営業していた頃親しかったあるお客の依頼で、その方の帯を買う現場に立ち会ったことがある。待ち合わせの喫茶店に現れた男は、文字通りある本の帯だけを買ってくれと持参したのであった。第一回芥川賞受賞本の「蒼氓」の帯で、たしかに、その頃も今も古書界にも滅多に帯付は現れない。だが一般にはいかに珍しい帯とは言え本に巻かれている状態で取り引きされるのが常識と思うが、帯だけをテーブルの上にだされた時には唖然としつてしまった。まったく意表をつかれたわけで、当店で保管していた半分だけの帯と比較して、本物には間違いないと思うのだが、なんとなくスッキリとしない。が、結局お客は五十万余りの現金を渡し、商談は成立したのである。 |
東京古書組合発行「古書月報」より転載 |
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