古書催事の新しい流れ


 今月は、古書月間として、各地の即売催事をご案内してきました。なかでも、東京では、ほぼ毎週のように、古書即売催事が開かれています。神田の古書会館はもちろん、西部(高円寺)や南部(五反田)の支部会館でも盛んに行われています。デパートや屋外広場など、会館外の催事も活発。「神田古本まつり」は、まさに今日がスタートです。

しかし、厳しい経営環境のなか、低迷している即売催事も少なくありません。限られた古書ファン層だけを相手にしていては、単なるパイの獲りあいに終始するだけ。新しい古書ファン層を獲得し、裾野を広げていかなくては、古書催事の未来は見えてこない、というのが現状のように思われます。 そんななか、最近では、新しい発想の、新しいスタイルの古書催事が目につくようになってきました。 先鞭をつけたのは、「アンダーグラウンド・ブックカフェ」。神田古書会館の新装とともに誕生。ゆったりとした空間のなかで、じっくりと本を見てもらおうという発想、会場でコーヒーを提供するという発想は、それまでの催事にはないものでした。そして、トークから、ワークショツプ、映画上映と、イベントも盛りだくさんに詰め込んで、より多くの本好きに来てもらい、本と接する機会を広げ、本と共にいるひとときを楽しんでもらおうという、チャレンジ精神にあふれた企画は、革命的と言ってもいいほどのインパクトでした。

「アンダーグラウンド・ブックカフェ」は、残念なことに、今年、第10回をもって休止中ですが、「アンダーグラウンド・ブックカフェ」が開拓したフィールド、精神は枯れることなく、あちこちで根づき、芽を出しはじめています。 「わめぞ http://d.hatena.ne.jp/wamezo/ 」のグループの活動がユニークです。早稲田、目白、雑司が谷の頭文字をとったネーミングが「わめぞ」の由来。そのエリアで営業している古本屋が中心となりつつ、イラストレーターやライター、雑貨系のお店、さらには本来買い手であるべき古書ファンまでも巻き込んで、面白いイベントを定期的に開催しています。そこには、既成の概念にはとらわれず、楽しいことならやってしまおうという自由な精神が感じられます。今年から始まった「月の湯」の市などは、思わず「やられた」と思ったりしました。

直接、古本に関わるわけではありませんが、「西荻ブックマーク」の動きも気になります。西荻には、古本屋も多く、本に関わる仕事をしている人も多いということから、3年ほど前から、本に関わるイベントを毎月地道に展開しています。地域の活性化という発想は、「わめぞ」と共通しているかもしれません。

今年に入り、新鮮な催事が二つ増えました。 「ちいさな古本博覧会 http://blog.livedoor.jp/furuhon_hakurankai/ 」と「五反田アートブックバザール http://artbooks.exblog.jp/ 」がそれ。 「ちいさな古本博覧会」は、博覧会と銘うつように、本を売ることはもちろんですが、店のPRをする場としてのイベントという発想が根っこにあります。「おらが国の自慢」をするように、店の自慢の品で勝負してもらおうというのが趣旨です。店を始めて、まだ10年にも満たないような新しい店が多く参加し、もっと自分の店、商品のことを知ってもらいたいという願いが込められています。その意味では、「アンダーグラウンド・ブックカフェ」同様、新しい顧客層の開拓というのが、大きな狙いの一つです。第2回は、11月1日から開催されます。

この10月初旬に、第1回が開催されたばかりの「五反田アートブックバザール」もこれからの催事に、ひとつの方向を示したものとして注目です。テーマに絞り込んでの催事というのは、店集めから、品集めまで、容易なことはありません。しかし、マンネリ化の傾向にある古書催事を打破するには、このような一点突破的やり方が重要なように思えます。

東京発の動きに注目しましたが、各地方にも、同様の視点、発想からの催事の流れは生まれているようです。まだチョロチョロとしたささやかな流れでも、いつか、それらの流れが合流し、大きな本流となる日は遠くないかもしれません。その可能性に期待したいと思います。


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