「東京堂ふくろう店の出版の棚」をつくるにあたって

畠中理恵子

 東京堂書店で働き始めこの四月で三年目に入った。以前は同じ神保町すずらん通りの数軒先で、地方小出版流通センター直営店「書肆アクセス」で働いていた。地方小出版流通センターとは、全国の地方の出版社や小規模の出版社と大手取次、書店を結ぶ中取次のような流通業を営む会社。1000近い出版社の本を扱っている。「書肆アクセス」はそのアンテナショップとして30年近く営業していたが、営業不振で2007年11月に閉店。私も退職した。その後たくさんの方にお世話になり縁あってすぐ近くの東京堂書店で働くようになった。

 書肆アクセスは、書店への卸し業務と一般の読者への販売業という二つの顔があった。神保町再開発が行われる以前(もう十年以上前になる)、神保町奇数番地が今よりたくさんの中小の取次店が30近くひしめき、活発に中小書店が直接書籍を仕入れに来ていた時代、卸し業務中心に営業していた。より早く読者に本を届けたい、と様々な書店が時間をつくり仕入れにいらしてくださった。また、近所の古書店が定期的にいらして、あまり流通していない地方の出版物や小部数の出版物、独自に仕入れた自主流通本など、本の街に訪れるコアな本好きの読者のために仕入れてくださっていた。週末、本を探しに神保町へいらっしゃる読者とこのような書店に支えられて営業できた幸せな書店だった。

 年々中小書店の仕入れが減り厳しい経営が続く中、少しずつ一般客へ向けた品揃えをするようになり、読者の要望に応えながら、出版社や出版人について書かれた本、古書についての本を集めるようになった。以前から扱わせていただいていた『古書通信』『彷書月刊』を中心に、それらの特集を参考に関連書籍を探し並べ、『sumus』 『modern juice』 『いろは』 という古書について様々な角度で書かれた文章を集めた同人誌を扱うようになり、いつのまにか「出版の棚」は地方の本と並び書肆アクセスの顔になるようになった。 『sumus』 『modern juice』 『いろは』 『BOOKISH』 『CABIN』 らの魅力的な個性ある著者は「古本」ブームをつくったひとつのきっかけになったと思う。著者が著者を、また、読者が情報を運んできてくださった。10坪の店にキャッチボールのように集まる情報を三段程度の棚に並べる。小さな小さな世界だ。

 二年前入った東京堂書店では三階のフロアで「地方出版社や小出版社」の本、自主流通本「リトルプレス」のコーナーを担当するようになった。三階という立地や専門書を扱う階ということもあり、路面だった頃とは全く違いある程度目的をもった方たちしかいらっしゃらない。のんびりした雰囲気は「書肆アクセス」と同じだが、私自身は「地方小出版流通センター直営店」という制約がなくなると、大海に放たれた小舟のようで、出版についての本の多さに改めて驚かされた。全く恥ずかしい。「すべてに目を配り集めねばならない」という強迫観念に完全にヤラレテしまった。ヤラレテしまい、結局小さい、自分の足元しか見ないように、こじんまりとある意味できるだけ閉じて何かかたちを作ろうとしていたと思う。

 この三月から東京堂書店ふくろう店に担当の棚「地方小出版(物)、リトルプレス」ごと引っ越しまた路面で働き始めた。晴れや雨の空気や温度を実感し、毎日入荷する雑誌やコミックの多さに今更驚きながら、でもゴウゴウと店にいらっしゃるお客様の迫力にヨロコビを感じる自分がいる。「出版の棚」も一本だけつくり始めた。関西発、古本と音楽の雑誌『Sanpo magazine』や神戸海文堂書店発行『ほんまに』など新しい冊も仕入れるようになった。日々に振り回され引っぱたかれながら働いている。でも、今度は大海に揉まれながら、何とかどこかへ進み読者に相手をしていただけるような場所をつくりたいと心の底から求めている。

 


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