今年も後少しで終わりとなってしまったが、一年を改めて振り返ってみると、やはり古本屋に始まり古本屋に終わる一年であった。
ブログ更新のために訪ねたお店(基本的に新規である)は、12/15現在で307店、各お店で買った本は598冊。そして調査のために文庫サイズのノートを七冊使い切った…。このように己の行動を数値化して見てみると、常識の範囲を大きく逸脱していることが、身に染みて良く理解出来る。そしてそのツアー先はと言えば、仕事による出張が少なくなったため、あまり遠くまで足を延ばせなくなってしまった。一番の遠隔地は北海道・札幌で、南は山口・岩国が限界(これは両方とも、その少ない仕事での移動である)。その上、四国・山陰・九州には一歩も踏み込めない体たらく。と言うわけで春先頃から、自身の力で動くツアーへとシフトしたのだが、やはり中々遠くには行けず、ブログ名にある“イン・ジャパン”が“イン・関東”になりつつあったことを、自虐的に自覚しながら、脱却への道を模索する日々を送っていた…。
ツアーは今年三年目。正確な数は把握していないが、今まででおよそ千店は訪ねていようか。当然巡れば巡る程、訪ねるべきお店の数は少なくなって行く。東京在住の私にとっては、その周辺のお店が一番訪ねやすく、経済的にも負担が少ない。が、神保町・早稲田・本郷三丁目の古本街を残し、あらかたツアーしてしまった感があるので、自然と足を遠くへ向けることが多くなって行くのは必然であった。東京に残ったお店を訪ねつつ、関東六県に触手を広げる毎日がしばらく続いたのだが、しかしお店は有限なので、先が段々と見えてくる。そんな八月の暑いある日、安上がりな普通列車ばかりでの移動に業を煮やし、ただ古本屋に行くためだけに新幹線に飛び乗り、豊橋へと向かってしまった。おぉ!やはり何と速く遠くへ行ける乗り物なのだ!と感心しつつも、滞在一時間のとんぼ返り。しかしこの衝動的な行為が予想以上のカタルシスを私にもたらし、未知の遠い土地とお店は、特別な極甘で危険な果実と化してしまった。以降様々な方面を切り詰めつつ、長岡・岐阜・一ノ関・長野・山形・富山へと向かい、今後の古本屋ツアーの可能性を、経済状況とともに試行錯誤する秋冬を過ごすこととなった。2011年は、長距離バスや夜行列車も利用して行き、さらにはツアーのための宿泊も視野に入れ、行動フィールドをさらに拡大させて行きたいものである。
そして肝心の調査対象の古本屋さんたちであるが、そこがどのようなタイプのお店であろうと、私にとっては変わらぬまぶしい光を放っていた。未だに店売り最前線でがんばるご高齢の方から、店を始めたばかりの20代の人まで。それぞれの歴史や物語が棚に現れ、本への気持ちまでがむき出しになってしまう店舗群の、なんと興味深く面白いことか!これだけ巡っても一向に飽きずに、あまつさえお店を見つけたら、乙女のように駆け出してしまうのは、ひとつとして同じ店が無い、その多様性にあるのだろう!客商売という前提を、時には逸脱してしまうほどの、このアナーキーなお店たちを、私はこれからも愛して止まない。
さらに今年の特徴と言えば、新しいお店が次々に誕生したことである。リスクの少ないネット店舗が花盛りのこの時代に、まだ若い男女が自分自身の表現方法として古本屋と言う職業を選択し、実店舗を開いてしまう勇気に、惜しみない賞賛の拍手を送りたい!私自身も、時々フッと心に浮かび上がるツアーの危機を、新しいお店たちに何度も救っていただいた。また、この古本を自分たちの表現方法として利用する傾向は、カフェ・雑貨屋などにも多く見られ、古本の流通形態が若い人たちの中で、変化していることも実感した。果たしてそう言うお店で、どのくらいの人が古本を手にするのかは不明だが、各地・各所にさりげなく潜む古本棚は、かなり多いものと思われる。新旧で受け継がれて行く古本の本流と伏流は、深く果てしなく流れ続けている。
2010年はこのように過ぎて行った。2011年も同様に、未知なる喜びを求めて、古本屋探訪にガシッと腰を入れて行きたい。しかしツアーの行く着く先は未だ想像もつかず、もしかしたら永遠にこの作業は続くのかもしれない、と時たま考えてしまう。永遠に続く広大なフィールドでのモグラ叩き…もしくはサグラダ・ファミリア建設のような、終わりの無い作業…。これはまた、自分の心との闘いであることも認識しながら、新しい年も古本屋への道のりを、勇ましく、そして迷い無く歩んで行きたい。
古本屋ツアー・イン・ジャパン http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/
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