今年で、ほぼ毎日のように古本屋を巡り始めて、四年目。私にとって、人生の大部分を占めつつあり、生きるよすがともなった感の
あるこの『古本屋ツアー』と言う行為…楽しさと苦しさがないまぜになった、この私的調査的奇行…。もはやそこに確固たる理由は存
在せず、ただただ行動のみが熱い目的と化し、血眼になって古本を売っている場所を探し求め、今日も都市の裏路地を徘徊し続けてい
るのである…。
2011年の1月1日、私は神戸にいた。お正月から営業している古本屋さんを訪ねての行動である。目的のお店は、残念ながらシャッ
ターを閉じていたが、別の営業中のお店を地下街で偶然発見し、どうにか幸先の良いツアーのスタートを切ることが出来た。しかし神
戸にはまだまだ訪ねるべきお店が多く、大阪・京都も含めた三都を、これからの調査の大きな壁として実感することとなる。それからは
東京と関東近県を核にして、時たま地方都市を訪れるパターンを繰り返す毎日。角田・福島・日立・蒲郡などの未知の土地に足を踏み
入れ、古本屋をひたすら踏破して行くイカれた日々……
しかし、3月11日に恐るべき“東日本大震災”が発生してしまう。いつまでも続くと思われたイカれた日常は、さらにイカれた事態により、一変することとなった。本の山への畏れ・武器と化すハードカバーの恐怖・不安定な交通機関・頻発する余震・原発事故とそれに伴う停電・途切れる仕事…一挙に浮上して来た不安の数々…正直古本屋どころではなかったはず! だが震災の六時間後に私が取った行動は、近所の古本屋の様子を見て回ることであった。
どうしても確かめずにはいられなかったのだ…。街は暗く、幹線道路に徒歩で帰宅中の人があふれ、非日常な今までに体験したことのない不穏な空気が流れていたが、覗き込んだ古本屋は、しっかり何事も無かったかのように営業していたり、片付け中であったりと、ポッと心に明るい火を灯す力強さを見せてくれた。もはやこの古本屋を訪ねると言う行為は、私にとっての精神的支柱であり、存在理由であり、自身を確認する鏡であることを、期せずして認識してしまった震災当日の夜…。その日からしばらくは、まだ自宅から遠く離れることが不安なため、新しい古本屋の踏破ではなく、自転車で行ける範囲の古本屋を見て回る、自主パトロールを続けることとなった。巡ることが出来たのは中央線沿線のお店で、初期はさすがに棚の片付けのため臨時休業中の所もあったが、日を追うごとに被害を思わせるお店は姿を消して行った。
となると、もはやツアー再開は必然! 迫り来る本棚に多少の恐怖は感じつつも、段々とと言うか、すぐに『欲しい本は欲しい!』と言う基本原則に立ち返り、古本をリハビリのように少しずつ買い始めたりして行く…しかしここで、『では東北や茨城の古本屋は、果たして大丈夫なのだろうか?』の思いが激しく頭をもたげる! ネットや人づてに情報を集めて行くと、街全体の様子などは少しずつ判明するのだが、普段ですら入手し難い街の一古書店の消息となると、容易にはたどり着けず、霞のかかったような日々が続く。…いずれ交通機関が回復し、もう少し状況が安定したら、自身の目で見に行くしかない…。そしてようやく東北への道が開けたのは五月で、須賀川の「古書ふみくら」の営業再開をHPで確認しての行動であった。
被害を受けた街を目の当たりにしながらも、力強い古本棚に出会えたのを端緒に、六月・七月には山形・岩手・秋田・宮城に“JR東日本パス”を利用して、日帰りで都合五回出向く結果となった。新幹線を使えるとはいえ距離が遠く、パトロールではなくレポート目的の東北行だったので、一日に回れるお店は一・二軒が限度だったが、以前と変わらぬように高さへの挑戦を続ける、古本の山に各地で感心し、また改めて心配もし、古本を購入し続けた。しかしここでまたしても新たな思いが頭をもたげる…では被害甚大だった太平洋沿岸のお店はどうなっているのか…八戸・釜石・気仙沼・いわき・相馬・日立…いずれはこれらの地にも足を踏み入れ、状況を確認して来ようと思う。だがそんな時、驚くべき情報をネットで目にし、私は感動に打ち震えた! 気仙沼で津波により被災した「唯書館」と言うお店が、避難先の群馬県中之条で営業を再開したと言うのだ! この不死鳥古本屋さんを見に行かなくて、何の為の古本屋ツアーか!と、取るものも取りあえず七月の終わりに駆け付けると、まだ新しい出来立てホヤホヤのお店で、古本のひしめく図書室の如き店内が、優しくたくましく迎え入れてくれた。気仙沼のお店に行くことは叶わなかったが、どんな形であれお店にたどり着き、古本が買えたことを私は心から嬉しく思う。
あの3月11日を境に、すべての古本屋さんは、本の山との新たなる闘いの局面に突入してしまった。しかしどんなことがあろうとも、
闘いを放棄&放置せずに、人間の叡智の蓄積を、人間の知恵で維持し守り続けていただきたい! 私はそれを応援し続けるために、今
後も全国各地で、古本を買い、読み続けます! そしてこの夏の古本屋さんの店内は、節電のために押し並べて室温が高いので、店主
方々お客さんも、熱中症にはくれぐれもご注意願います!
小山 力也
古本屋ツーリスト。全国の古本屋の調査踏破を目指すブログ『古本屋ツアー・イン・ジャパン』管理人。お店をダッシュで巡ること、多々あり。全国制覇の野望は大きいものの、現時点で何店の古本屋を巡ったかを把握しておらず、この先訪ねるべきお店が何店あるのかも判らない。まったくもって行き当たりばったりな状況だが、この先もまだまだ旅は続いて行く。
古本屋ツアー・イン・ジャパン→
http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/
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