調べもののために、いま手元にはたまたま『図書』終刊号があります(本誌の読者は「えっ、『図書』も(!)やめちゃうの」なんて早とちりはなさらぬはず)。そう、終刊号とは昭和17(1942)年12月5日発行の『図書』第83号です。定価5銭(送料1銭)と印刷された最終面(表4)には新刊広告もあり、岩波文庫が6点と『数値積分法 下巻』(日高孝次著、A5判、305頁、クロース装、定価5円)が掲げられています。文庫6点のうち泉鏡花『註文帳』は★(星1つ)。これは昭和18年1月15日発行20銭とあり、当時の星単価が20銭と分かります。
寄り道ついでに社史を繰っていきますと、昭和13(1938)年1月に「岩波書店新刊案内」が第24号より「岩波月報」と改題されたとあり、さらに同年8月号で『図書』となったとの記述が見えます。この雑誌名は店員(まだ会社組織ではない)から募集し決定したともあります。『図書』創刊はこの1938年8月としてよいかと思われます。そして復刊第1号は1949年11月号。この段階ですでに現在まで続く巻頭エッセイ「読む人・書く人・作る人」が始まっているのが驚き(第1回執筆者は安倍能成)。
復刊第1号の「片隅から」(19頁。現在の「こぼればなし」欄)の一節にはこうあります。
書籍や雑誌がこんなに沢山発行され読まれているのに、書物に関する雑誌が少いのだから、多分この雑誌が非常に必要な役目を果すやうになるだらう。書物に関心をもつ人が、喜んで毎月見てくれる、さういふものにしたい。
実に簡潔な上に(故に)、今の私たちの抱負と重なりますが、「非常に必要な役目」とは面白い表現です。曖昧なようで、これに勝る表現はすぐには見あたらない。いろんな必要があるに違いなく、予め規定することも難しい(でも私には「多分」がなんだか一番嬉しい)。
本を書いた人、本を読む人、そして本をまだ読んでない人がいる。そしてこの『図書』がいつも本と人とのあいだのどこかにいて、何か必要な役目を果たしたい。非常に必要な役目でなくてもいい、その時必要でなくてもいい、いつかはどこかで本へとつながる回路でありたい。
復刊第1号の「片隅から」はこう締め括られていました。
この雑誌は一年分金百円である。前金で申込んで置かれるのが御便宜と思ふ。
現在は1年分1000円です。これからも『図書』をどうかご贔屓に願います。
岩波書店『図書』編集長 富田武子
岩波書店『図書』
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