2007年秋に長谷川郁夫さんから、「日本編集者学会」を作るから参加せよという呼びかけがあった。長谷川さんは小沢書店を30年間主催し、その後、大著『美酒と革嚢―第一書房・長谷川巳之吉―』で芸術選賞文部科学大臣賞を受賞、以後『藝文往来』、『堀口大学―詩は一生の長い道―』など名著を立て続けに著され、いまは大阪芸術大学教授を務められている。
その長谷川さんが、近年の書籍の内容と編集技術の劣化に、いてもたってもいられなくなったのである。
その後、呼びかけに応じた現役と元編集者10人ほどが、4年間の会合やセミナーを重ね、今年11月に機関誌『エディターシップ』の第1号を発行した。
内容は、文芸編集の大立者・故寺田博氏の回想録(400字300枚!)や、講談社で吉行淳之介などを担当された『群像』の名編集長・徳島高義氏の講演、平凡社でイメージ・リーデイング叢書を推進した石塚純一氏(札幌大学)の人文書編集論、そして『婦人公論』『中央公論』編集長を務めウェブ情報会社に転身した、元中公の大編集者・河野通和氏(現・新潮社『考える人』編集長)の雑誌論など。他にも山田健太氏(専修大学)の3.11東日本大震災をめぐる新旧メデイア論や、北海道で気を吐く寿郎社のルポなど、本好きには、頁を繰る手ももどかしい、という内容になっていると思う。
なぜ編集学会ではなく、編集「者」学会なのか。一例を挙げる。江藤淳『成熟と喪失』と吉本隆明『共同幻想論』は同時期に寺田さんが取った原稿である。そしてそれと前後して、石原慎太郎(「行為と死」)、三島由紀夫(「英霊の聲」)なども。また徳島さんは入社してすぐに大江健三郎の「芽むしり 仔撃ち」の原稿を得、吉行に「鳥獣虫魚」を依頼し、雑誌掲載している。
編集技術の本は数多あるが、書物の編集は、技術論だけではどうしようもないのである。
(『エディターシップ』第1号、定価2,520円、年に1、2回不定期刊。第2号登場は杉浦康平、小林祥一郎ほか)
|