2011年の古本屋ツアー・イン・ジャパン活動報告

古本屋ツーリスト 小山力也


 神戸・日立・飯倉・角田・福島・焼津・つくば・蒲郡・草津・高崎・静岡・高岡・信濃追分・川名・北三条・栃木・須賀川・北軽井沢・鹿島神宮・秩父・鶴岡・塩釜・水沢・横手・前橋・月江寺・仙台・盛岡・益子・中之条・磐田・飯田・大津・小名浜・京橋・大阪・別府・小倉・小山…2011年12ヶ月分のブログを遡り確かめた、古本屋さんを訪ねた地方の街を列挙してみた。今年は都心近くの、訪ねるべき未踏の古本屋さんが少なくなっているため、より地方に足を延ばすことを心がけたのである。がんばったな、と言う気もするが、やはりまだまだな感じは否めない…いや、本心を言うと“感じ”の話などではないのだ。単純にもっと行きたいのだ!地方に!遠くに!行ったことの無い古本屋さんに!こうまで意気込んでしまうのは、やはり三月の大震災の影響があるのかもしれない。“今見に行かないと、絶対に後悔する。

本当にいつ無くなってしまうか判らないから”と言う漠然とした不安からの行動…しかしこれが逆に自分のエネルギーとなり、“とにかくお店を記録に留めるのだ!”と、時間と財布の許す限りの、リミッター外しかけの、綱渡りな九ヶ月を過ごしてしまう(もちろん現在も継続中である…)。特に復興に向かう東北には、何度も訪れることとなった。すっかり元通りに立ち直ったお店、再興中のお店、残念なことに閉じてしまったお店もあった。しかし、実際のお店を目にしたことにより、自分の中では何かが形作られて行く…。店主本人からも『ウチの本は一冊も落ちなかった!』『もう店の中はテンヤワンヤ』『すぐ外に飛び出しちゃった』『友達が行方不明なんじゃ』などと聞いたりしながら、とにかくお店を闇雲に訪ね、古本を買い、自身の脳内古本屋地図を作成更新して行く。おかげで地震前より、確実に蔵書が増えてしまうことになり、『本を買うのは、なるべく控えよう…』などと思っていたのは何処へやら。以前は部屋の中でタワーとして存在感を放っていたのが、家内のそこかしこで低い台地として、生活圏をジワリジワリと侵食し続けている…。

 またこの年は、予想以上に新規開店のお店が多かった。都内を中心に何と34軒!最近はやりのカフェ&雑貨屋兼業のスタイルだけではなく、古本屋さん一本のお店も次々とオープンし、新世代のうねりをダイナミックに感じさせてくれた。何度この勇気あるお店たちに、ツアーの危機を救われたことか。それと同時に、店頭販売を辞めるお店も、多く目の当たりにすることとなった。業界の新陳代謝と受け取れば明るく思考出来るのだが、やはりお店を閉じられるのは非常に寂しいとしか言いようがない。

 そしてこれだけ“古本屋ツーリスト”と勝手に称して、古本屋さんを巡っていると、時に身に余る依頼が舞い込んだりする。まずは3/19に『西荻ブックマーク』と言うイベントで、岡崎武志氏とのトークショーを行うことに。地震後の非常に慌ただしい状況ではあったが、ガチンガチンに緊張しながらおよそ50名の観客を前に二時間。精も根も尽き果てるが、何か古本屋さんを巡り続ける思いの丈を話しまくれたようで、自分にとっての心のターニングポイントとなった。その場に居た、すべての方に感謝したい。これがきっかけとなり、10/29には、何と敵の本丸のひとつである『神奈川県古書籍商業協同組合』からトークの依頼があり、古書の日の『古本屋開業講座』の一環として、またもやド緊張しながら人前で話しをすることに。古本屋さんになりたい方々と、プロフェッショナルの古本屋さんに周囲を固められながらも、ほとんどブログの勢いそのままに、古本屋さんについて語らせていただいた。これはもう本当に懐の深い、神奈川県古書組合のみなさまに感謝である。

 さらに12/10からは、ようやく念願の古本販売を開始することに。買う一方だった私が、ついに供給側へと足を踏み入れてしまったのだ!西荻窪『盛林堂書房』さんの常設棚貸しイベント『古本ナイアガラ』の最下段で、「フォニャルフ」と称し、常時三十冊ほどの本を並べさせていただいている。これが始めてみると非常に面白く、テーマに頭を悩ませたり、補充をしたり、売れたり売れなかったり、お店が気になってしょうがなくなったり、棚に合う本を探したり買ってみたりと、新鮮な体験の連続なのである。もちろん私などは、児戯の域を出ない棚造り&販売なのだが、何か新しい一歩を踏み出せたようで、これからも真剣に頭を悩ませて、良い古本を並べて行きたいと思っている。

 最後に、私にとって今年は、たくさんの探している本と、安値で出会えた幸せな年でもあった。その収穫を挙げてみると、集英社コバルト文庫「文彦のたたかい」「水瓶座の少女」共に野呂邦暢で100円、サンリオSF文庫「猫城記/老舎」50円、講談社文庫「工場日記/シモーヌ・ヴェイユ」100円、秋田書店「怪獣ウルトラ図鑑(裸本)」1000円、鹿島出版会「近代建築ガイドブック[北海道・東北編][東海・北陸編]」共に800円、小学館「森やすじの動物カット集」100円、改造社「哀しき父(裸本)/葛西善蔵」200円、明治書院「おはなし電気學/佐野昌一」800円などなど。まぁ状態の善し悪しはあるにはあるが、ネット販売ではなく、お店に直接出向いたからこその成果であると言えよう。これだから古本屋ツアーはやめられない…。

 2012年も、探し求めている素晴らしい本たちや、まだ見ぬ古本屋さんとの出会いを切実に求め、全国を駆けずり回って行くつもりである。さて、一体どんな一年になりますことやら…。


『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。調査活動は今年でいよいよ五年目へと突入する。最近は「フォニャルフ」の屋号で古本販売も始めた。あぁ、私は一体何がしたくて、果たして何処へ向かっているのだろうか…。
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