十年程前、神保町の近くで働いていて、古書会館を知りませんでした。古書店は立ち寄りましたが、普通の女の子が古書展に辿り着くには水先案内人が必要かもしれません。
その後、就職した会社の社長は大正生まれのコレクターで、古書店の知り合いに社長の話をすると「神保町の古本屋で社長を知らない人はモグリだ」と言われるほどの蒐集家。蔵書は数十万冊。近代文学のコレクションのほかに、和本、短冊、原稿、掛軸などの書画、浮世絵、地図と幅広い内容です。
社長のお手伝いで古書即売展に毎週通い始めて最初の頃、キラキラとした水色の分厚い「泣菫詩集」(大正14年刊)を手に取ると随分古い四つ葉のクローバーが押し草にしてあっておそらくこの本の持ち主は大正時代の乙女でと色々と想像いたしました。四つ葉のクローバーを自分で見つけたいとずっと探しておりましたので、とても嬉しく、即売展には良いご縁があると思いました。
本は人間より長く生き、長い時間ずっと読まれるのを待っています。そして、本の過ごしてきた時間を触感、匂い、自分の記憶と絡み合わせて、現物を手に取ると自然と愛おしさを感じます。インターネットで買い求めるのも良いですが、便利なものは思い出をショートカットしがちに思われ、私は勿体無いようにも思います。時間に研磨され、当時は斬新な本も奥ゆかしく感じられたり、価値も変わります。本は生き物だと思います。
古書展にいらっしゃるお客様や出展の古本屋さんは、皆さんそれぞれ専門の分野があり知識も深く、教えていただく言葉の端々にも只者ではないことがわかります。お客様や古書店主だけでなく古書店の番頭さん、アルバイトのかた、古書に関わる方は面白い人たちが多く、絵描き、役者、演奏家と幅広く、私も絵を描くので良い刺激をいただいております。
先日、旅行中の知人が一人で神保町を散策して面白くなかったとのことで、案内役を請われ、古書即売展でお勧めの本屋さんなど教えていただき、神保町をブラブラしました。結果、神保町は素晴らしく楽しいと満足して帰りました。何事も本当の魅力に気づき面白いと思うには時間が必要だと思います。街も全く同じだと思います。何度も繰り返し通うことが出来ないのだったら謙虚に教えを請うと良いと思います。私は十年ほど神保町に通って、街の方々に顔を覚えていただき、道を歩いていても色々な方とご挨拶ができて、かけがえのない財産ができたと感じております。ありがとうございます。
即売展には色々な会があり、雰囲気も品揃えも違います。出展する本屋さんが違えば本の傾向も変わってきます。ぜひ会の特徴を覚えるまで通ってみてください。そして、本屋さんと仲良くなって、事前に作られる古書即売会の目録に目を通して、本屋さんに注文して受け取りにいらしてください。人気の本だと抽選になります。当たると嬉しいですが、外れてとても悔しかったら、本当の本好きでしょう。そして、探していた本を手に入れる嬉しさに生きる活力を得ます。
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