私はもしかしたら古本屋さんに呪われているのではないだろうか…そう妄想してもおかしくないほど、古本屋さんを探し、訪ね、調査し、古本を買い、それらに生活をブンブン振り回され、楽しく毎日を過ごしてしまっている…。
古本屋自主的調査活動五年目に突入した今年は、正月早々古本屋で地震に遭い、また『古本福袋』を買い古本で幸せを呼び込むことから、その古本屋まみれの一年をスタートさせた。古本的幸せをしっかりと呼び込めたせいなのか、何事も無く怒濤のように各地のお店に顔を出し、古本を買い続けることが出来た。一月は京都「善行堂」で精算時に店主に正体を見破られ、二月は雪の気仙沼を訪れて不死鳥古本屋「唯書館」の再スタートを祝うことが出来た。三月は店舗を持たぬ憧れの「月の輪書林」に突撃し強引にツアー。四月は塩尻でお休み中の倉庫のような「対山堂書店」に優しく招き入れてもらえ、五月は火力発電所の特需で湧く福島・植田「瑞林堂書店」で古本と共にコインを買った。
六月は昭和三十年代が冷凍保存された街、山梨の月江寺で「不二御堂」の登場に驚く。七月は琵琶湖畔に出向き、彦根「半月舎」・長浜「さざなみ古書店」の両女性店主店でやに下がる。八月は関内に若者がオープンさせた詩に傾倒する「中島古書店」に感激し、九月は山形の「紙月書房」でミステリ&探偵小説文庫本を買いまくる。十月は奈良に仕事で出張して仕事の合間に郊外の二店を巡りつつ、神保町に勇気ある出店をした「マニタ書房」に拍手を送る。十一月は千葉・太東の崖際で古本を売る「GAKE」に『何でこんな所で古本を売るんだ!』と思いつつ、秋田・羽後本荘の「文弘堂書店」で寒さに震えて棚を見る。十二月は徳島から森下に移転して来た「古書ドリス」に感謝し、大阪の「天牛堺書店 船場店」で均一本を買う…もちろんここに挙げた以外にも、印象的なお店は十指では足りないほどたくさん控えている。
それに私は一月の終りに、ある三店の古本屋さんと、お店を必ず今年中に訪ねることを約束していた…。岐阜「徒然舎」、倉敷「蟲文庫」、犬山「五っ葉文庫」である。前回のメルマガ(2012年7月25日号第117号)で『話す相手が古本屋さんなら、私は『伺います』の言葉を、社交辞令には決してしない覚悟で生きて行くつもりである』とほざいてしまったので、必ず訪ねなければならぬ重い十字架として、ずっと背中にのしかかっていたのだ!しかしどうにか、五月に「徒然舎」、十一月に「蟲文庫」、十二月に「五っ葉文庫」を強引な滑り込みで訪ね、しっかりと約束を果たすことが出来た…それにしても古本屋さんを訪ねるのは、こんなにも難事業だったのか…。
何故そこまでして?と自分でも時たま立ち止まって考えてしまうのだが、そこに未踏の古本屋さんがある限り仕方の無いことと、もはや諦めてしまっている。それに十字架であった三店がどれも良いお店であったことが、結果としてとても爽やかな達成感をもたらし、さらなる古本屋さんへの旅を促し続けているのである!
このように、古本屋さんに呪われたかのような『古本屋&古本狂い』の毎日…とここで結べば例年通りなのだが、しかし今年はちょっとひと味違い、全国から集めて来た古本を、様々な所で販売する機会に恵まれた一年でもあった!西荻窪「盛林堂書房」の常設棚貸しイベント『古本ナイアガラ』(一月ごとにテーマを変えて三十冊ほどを並べている)、わめぞ主催の「みちくさ市」&「外市」、そして一般古本界とはあまりクロスしないライターやクリエイターが主催したアナーキーな「古本ゲリラ」、六角橋商店街で夜に開かれる「一箱古本市」。これらへの参加に加え、自主的に古本屋に関するフリーペーパーを毎回創ることがまた楽しかった。『ナイアガラ』テーマ別の目録擬き・『中野通り古本屋ベルト』(中野通りを中心とした縦3キロ×横1キロに含まれる古本屋さんを紹介)・『古本屋テンプテーション・スパイラル』(自分がどれだけ古本屋が好きでしょうがなくて訪ねているかを、とことん言葉にして表現してみた試み)・『都電荒川線古本屋分布図』・『東海道古本屋さん六次』(神奈川古書組合での古本屋入門講座に備え、神奈川県内にある東海道の宿場町にある古本屋さんを訪ね、古本を買いまくるレポート)・『十九画の呪い』(どうして古本屋を訪ねるのかを、詩で表現した試み)、『古本屋レクイエム』(今年閉店した大好き&印象的だった九店を取り上げ追悼!)・『選挙に行って、一日赤いドリルで管を巻く!』(「古書赤いドリル」での一日店長的受動イベントに合わせて作成した、店主と私がお互いのことを書き連ねたたもの)などなど…書き出してみると、明らかに作り過ぎであることが良く判る…。
元々は、古本屋を開きたくて始めた『古本屋ツアー』なのであるが、未だ開業に飛び出す勇気も甲斐性も無く、庇を貸して母屋を取られる状態が続いている。もたもたしている間に、新しいお店が、新世代のお店が次々と開店し羽ばたき飛び立って行く…。勇者たちの行動にエールを送りつつ、私はその周囲をウロウロウロウロ様子を窺っているだけ…。この調子だと、来年も古本屋にはなれずに、ますます古本屋調査にのめり込んで行く毎日を送るに違いない。一体これは、何の因果なのだ!…あぁ、やはり私は、古本屋さんに呪われているのではないだろうか…。
しかし例えそうだとしても、私はこの先の見えない『こちらが倒れるのが先か、お店を調査し尽くすのが先か』と言うチキンレースから降りるつもりは毛頭無い。来年は、北海道・青森・山陰・四国・九州・沖縄に足跡をつけて来たいものだと、すでに考えてしまっているのだから。
日本全国の古本屋さん、良いお年を!来年もどうか良い古本を、よろしくお願いいたします!
『古本屋ツアー・イン・ジャパン』 日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。 お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。 トマソン社のリトルプレス「BOOK5」で『新刊屋ツアー・イン・ジャパン』を、 webマガジン「ゴーイングマガジン」で『均一台三段目の三番目の古本』を連載中。 http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/ |