昨年夏、論創社からこのお話をいただいたとき、正直なところ大変困惑しました。
・・・なにしろ、ある方に「精薄的経営」とまで言われた薔薇十字社のことです。苦痛ぬきに話すことができるのか・・・何十年も経って、ようやく私の中の「恥多き過去」として閉じ込めに成功、最晩年をひっそりと生きているだけのときでしたから。
が、ともかくお会いするだけお会いして、場合によっては・・・などと思っていたのですが、結局、小田さんの巧みな質問に誘われるまま、恥を含めた洗いざらいをお話ししてしまった次第です。
思えば、私が編集者になったのは半世紀以上も前のことです。確かまだ、コピー機すら存在していなかったアナログそのものの時代でした。活字はひと文字ひと文字職人さん ― 植字工さんに拾われて組版となり、紙型となって印刷される。印刷会社によって活字の美しさも異なっていた、そんな時代です。それが、数年経つと、組版ではなくモノタイプとなり、やがて活版印刷という言い方がなくなり、書物の1ページを撫でてみても立体的な凹凸の感触が失われ・・・・・・あれよあれよという間に、現在のようなパソコン時代となって、フロッピーから印字転換できるようになってしまった。
そう考えると、その昔の1冊の本の原価は、現在に比べるとかなり高価についていたのではないでしょうか。そんな時代に私の場合はさらに贅沢な本造りを敢行、後先考えずに反省することもなく続けていたのですから、何をかいわんや、です。
ですが、今回、恥ずかしながらお話ししたことすべてを含めて、いまとなると懐かしい。経営に関しては、戻れるものなら、ああしたのに、こうしたのに、と思うものの、若い時代の体力にまかせて、お酒も飲んだが、のべつ出版のことを考えていたあの頃。・・・人に、仕事のほかにあなたの好きなものは、と聞かれると、映画と猫、と答えていたものでしたが、現在私は、視力も衰え、読書量もぐっと少なくなり、映画館へはほとんど行きません。もっぱら、猫の存在と、TVでのプロ野球中継などに救われている日々です。
そんな私ですが、少しでも遊んでやろうというお気持ちの方がおいでになったら、どうぞ、論創社気付でお便りいただければ、どんなに嬉しいでしょうか。
『薔薇十字社とその軌跡』 内藤三津子 著
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