谷澤永一先生がご逝去されたのは、平成23年3月8日のことで、いやな予感がしたが、東日本大震災の3日前のことであった。関西大学では、谷澤永一先生を偲ぶために、ただちに追悼会を企画し、同年5月に、「谷澤永一名誉教授を偲ぶ会」を催し、多くの方々と先生のご冥福をお祈りした。本年は、谷澤先生の三回忌にあたる。本書は、この追悼会に参列した人々からうながされ、追悼会に参加できなかった谷澤永一ファンのためにも、先生のお人柄がわかる本を作成しようとまとめたものである。
谷澤先生の書かれた「私の死亡記事」(『文藝春秋』平成12年)「第T部 悼む」「第U部 語る」「第V部 読む」「第W部 仕事」「谷澤永一略年譜」により構成されている。巻頭には、書斎での先生のお写真と、谷澤先生の愛唱した『閑吟集』からの自筆の和歌を掲載した。本好きで、博学で、鋭い舌鋒の評論家である一方、カラオケ好きで面倒見の良い先生のふだんの姿が浮かび上がる37名から書かれた短文を集めた追悼集にまとまっている。読むと、思わず誰しも眼がしらが熱くなってしまうだろう。
装幀にもずいぶんこだわった。追悼会での渡部昇一氏のお話によると、谷澤先生は、女性にもてたらしい。だからこそ、女性がさりげなく持ってもいい本にしたかったのだ。カラフルな色彩の年輪を著わすカバーと、若いころからのご友人の開高健の「朝のように 花のように 水のように」という言葉から、題をつけ、年輪のように刻んできた、先生の80年をこえる生涯を年輪は象徴したのである。
ただ、女性にもてたといっても、先生は無類の愛妻家で、生前から、喪主は絶対にご夫人の谷澤美智子氏と記し、若い頃から奥様のことを「おばはん」と呼んでいたらしい。これは、織田作之助の『夫婦善哉』を意識していた生粋の大阪人ならではだと思う今日この頃である。だからこそ、書家である奥様に題字を記してもらった。
谷澤先生の三回忌の記念として、ぜひとも多くの方々に本書を手に取ってもらいたい。
『朝のように花のように―谷澤永一追悼集』
論創社 好評発売中 1890円(税込)
http://www.ronso.co.jp/index.html
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