はじめまして。沖縄にあります「市場の古本屋ウララ」と申します。開店してまだ1年9ヶ月、古書組合には加入しているものの「日本の古本屋」には出品していなくて、沖縄県外の市に参加したのは一度だけ、店にはレジも固定電話もなく、狭いので均一本もなく、もちろん稀覯書もない、このメールマガジンを読んでいる方には怒られそうな古本屋です。
このたび、『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』という本を出版しました。いかにも古本屋の本らしい薀蓄やエスプリはないかわりに、多少は変わった話を書いているかもしれません。
ひとつは、沖縄の出版事情について。
私は古本屋を始めるまで那覇の新刊書店(ジュンク堂書店那覇店)で働いていました。本は東京から船で来るので発売が3、4日遅れ、台風のたびに流通が止まります。東京で話題になっている新刊がまだ入荷もしていないという状況を悲しみ、時間や送料の問題に頭を悩ませていました。
一方で、沖縄は郷土本の出版が全国一といえるくらいに充実しています。沖縄本の担当として多数の出版社(者)と個別に取引をし、一般的な本のつくりとは違う本(バーコードがないとか、背表紙がないとか)も扱って、お客さまから次々に寄せられるローカルでマニアックな問合せに対応してきました。大変でありながらとても面白く、古本屋になってからも沖縄の郷土本をメインに売り買いしています。新刊書店では出会えなかった本が続々と出てきて、古本屋の醍醐味を味わっています。
もうひとつは、「那覇の市場」の話です。
「市場の古本屋ウララ」は那覇の牧志公設市場の向かい、市場中央通りにあります。観光客も地元の人も集まってきて、車社会の沖縄には珍しく人が歩いている場所です。
市場中央通りはアーケードの下にあり、みんな店の前の道路に棚と椅子を出して路上で店番しています。通行人ともまわりの店の人とも距離が近くて、いろいろなやりとりが生まれます。また、特に沖縄の本を見たお客さまから「それ、うちの父が書いた本だ」「この写真に写っているのは私なの」と声をかけられ、そこから思いがけないお話を聞かせてもらえることもあります。ほんの数分の立ち話からその人だけの言葉や歴史がうかがえるようで、切れぎれのままに書きとめました。
ほかに中国の古書イベント「広州書墟」に参加した話や30年前の市場の写真、那覇の本屋のイラストマップなどのおまけもついています。こんなへんな古本屋もあるのかと、本棚の片隅に差していただけたら、幸いです。
『那覇の市場で古本屋 ひょっこり始めた〈ウララ〉の日々』
宇田智子著 ボーダーインク刊 定価:1680円(税込み) 好評発売中
市場の古本屋ウララ http://urarabooks.ti-da.net/
ボーダーインク http://www.borderink.com/?p=9190
|