一九七三年、中公文庫が創刊されてから四〇年を記念し、四月十月に記念小冊子を作成しました。春号は、『ベストセラーで振り返る中公文庫の40年』と題し、小池真理子、角田光代、誉田哲也、島本理生、嵐山光三郎、鵜飼哲夫、瀧井朝世の各氏に思い出の中公文庫について語っていただきました。
秋号は、「中公文庫40年 メディアをにぎわせた名著」と題しました。橋本治(青春小説)、三浦雅士(歴史物)、小谷野敦(谷崎潤一郎)、岡崎武志(日本人論)、香山二三郎(エンターテインメント)、末國善巳(歴史・時代小説)の各氏に、中公文庫の特色をジャンルごとに分析していただいた他、新聞や雑誌メディアで話題となった品を、編集部作成のコラムで取りあげています。
コラム執筆に際して多くの資料を集めましたが、面白かったのは、『週刊読売』一九七一年五月七日号が「特別企画 日本人」と題した、「日本人論」についての三〇ページにわたる特集です。巻頭に会田雄次「母性的社会のニッポン」と題する学術的な論文が掲載されていますが、「上杉謙信女性説」など意外性あふれる史観で一世風靡した八切止夫が騎馬民族征服王調節を批判した「日本原住民 謀略のにおいが漂う”韓国こそわが祖国説”」、ベストセラー『How To Sex』の著者・奈良林祥による「性意識ではまだまだ世界の”田舎もん”」など、懐かしすぎるエッセイが掲載されています。川本信正が「日の丸と金メダルに帰一するスポーツ価値観」と題して展開した勝利至上主義批判は、スポーツ界の体罰問題に揺れる今読んでも、古びない論考です。
「日本人とは何か――17氏は、こう見る」と題した著名人へのアンケートでは、浅丘ルリ子の「ハワイのホテルでステテコ姿の日本人を見ましたが、マナーをわきまえないのもいやです」という回答に、「ノーキョー」(農協主催の団体旅行)が世界各国で顰蹙を買っているという噂があったことを思い出します。渥美清は「日本人でありながら、日本人であることを恥ずかしいと思っている」と回答しています。七〇〜八〇年代は数多くの日本人論が著されましたが、まさにその理由を言い当てた言葉でしょう。
それから四十年、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」、「失われた二十年」を経て、日本人は「内向き」になっていると言われます。出版界のあり方も変革を迎えつつある今、過去を振り返ることは決して無意味ではない、そんな思いをこめて製作しました。書店で見かけることがございましたら、ぜひ、手にとっていただきたく存じます。(敬称略)
『秋の中公文庫40周年記念フェア 小冊子』
http://www.chuko.co.jp/bunko40th/
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