12月中旬に『古本屋ツアー・イン・ジャパン』(原書房)が刊行されます。「古ツアさん」こと、小山力也さん初の著書です。
小山さんは 5年ほど前から1日1軒の古書店調査を自らに課し、これまでおよそ2000件に上る記録をブログに刻んできました。そこには最寄り駅からお店までの道順に始まり、外観、店頭台や店内のレイアウト、棚の構成が克明に記されています。こうしたタイプの古本屋探訪記は今まで見たことがありませんでした。
「修行僧か伊能忠敬の生まれ変わりか」というくらい無茶に丹念に各地を回り、「それふつう電話してから行くでしょ」というような遠方の古書店にも、いきなり出かけて、閉じたシャッターや貼紙の前でションボリうなだれるという奇行すれすれのふるまいも、ブログの読者には新鮮に映りました。この人おかしぃんちゃうかと。
書籍化のきっかけは、音羽館の広瀬洋一さん肝煎りによる第50回「西荻ブックマーク」(2011年3月19日)でした。「岡崎武志×小山力也対談」の会場は、大正末期創業という古めかしいビリヤード場の2階。トーク中に襲った震度3の余震にビクビクしながらも、「おぉ、あれが幻の古本屋ツアーの人か」と興味シンシンで話を聴きました。常識の斜め上をゆく古本屋さんや奇抜な店主のエピソードに笑い、驚きながらトークは終了。そうして進行役の岡崎さんが最後に言いました。
「これ誰か本にする人、出版社いないですかぁ。早いもん勝ちですよ」
…それから幾年月、ようやく出版にこぎつけたわけですが、簡単にそれまでのプロセスを記しておきましょう。
まずはブログにアップされたお店や古書イベント全件の訪問日/エリア/店名/特徴などを入力し、載せるべきお店を段階的に絞り込み、打ち合わせを重ねてどのような構成?姿かたちにするかを話し合い、独特なテキストの表記に手を入れ、 リライトするといった作業がおよそ2年間かけて行われました。
当初は全件・全店載せるつもりで企画しましたが、いったい何巻本で何千ページになるのか、その間にもブログは日々更新され…、ということでその案はボツになり、「じゃあベスト版でいきましょう」と社内と著者を丸め込み、最終的にはA5判、2段組384ページほどに落ち着きました。
今回の書籍化にあたり、沖縄取材「古本屋ツアー・イン・ナハ」をはじめ、小山さんが心の中で「ドヒャッホウ!」と叫んだ本のコーナーや、古本屋さんの見取り図セレクト編など、お楽しみも盛り込みました。岡崎武志さんの解説も必読、そして「コレは売りになると思うんですよね」とささやく小山さんの口車にうっかり乗せられ、ツアーした1600件近い古本屋さんリストも巻末に付けてしまいました。
この本は一般的な古本屋ガイドではありません。電話番号やお店へのインタビューもありませんし、ゲリラ的に、勝手に取材しています。かといって紀行文のたぐいでもない。営業担当も「これどういう棚に置いてもらうといいんでしょうねえ」と困り顔です(でも、ちょっと楽しんでいるようにも見えました)
15年ほど前、古本屋を歩く夢を繰り返し見ていた時期がありました。かつて住んだ場所や、なじみのある街をぶらぶら歩き、途中で中古レコード店に立ち寄ったり、夕暮れの酒場へ吸い込まれたりしながら、夢の中で様々なルートを歩き古本屋を訪れました。
よほど古本に入れ込んでいたのでしょう。気に入ったシブい店には何度も通ったり、ずっと気になっているのにどうしても行き着けない奇妙なお店もありました。しまいには実際の古書店の記憶、場所の感覚、夢のお店とが混ざり合って、「よしよし、これで龍膽寺雄全集はあと一冊」、「アレ? あそこに古本屋があるはずなんだけどな」ということすらありました。あったはずの場所にお店がないと、夢の中でもさびしい気持ちになったものです。
小山さんが2008年にツアーを開始してからはや5年。この本ができる前に営業終了、リニューアル、オンライン販売に移行したお店など、大小変化がありました。新規に開業したところも随分あるようです。
つい先日、西部古書会館のある高円寺で戦前から続くお店の支店が店名を変えるという衝撃ニュースが飛び込んできました。年内いっぱいで慣れ親しんだ看板が架け替えられるわけです。
今なら間に合います。「まだ」お店を開けているあなたの街の古本屋さんを、見知らぬ土地の古本屋さんを訪ねてみてください。『古本屋ツアー・イン・ジャパン』には、ヘンテコでチャーミングでいとおしくなるようなお店たちがたくさん載っています。この本を眺めていると、きっと古本欲がムズムズして、ツアーを敢行したくなりますよ。
『古本屋ツアー・イン・ジャパン──全国古書店めぐり 珍奇で愉快な一五〇のお店』
小山力也著 原書房刊
定価2520円(税込) 12月17日発売予定
http://www.hanmoto.com/jpokinkan/bd/9784562049745.html
|