古本屋ツアー・イン・ジャパンの2013年を振り返って

 古本屋ツーリスト 小山力也

 どうにかこうにか乗り切った。2013年は、そう思える節目の年となった。古本屋調査のキモとなる、訪ねるべき未踏店の欠乏が、いよいよ深刻な障害となり、大きく目の前に立ちはだかって来たのである。毎年同じようなことを言っている気もするが、毎年本気で言っているつもりだ。いや、正直言うと、未踏のお店はまだまだ悔しいくらいに残っている。要するにそれらが、住んでいる東京から遠く隔たっているために、おいそれと調査は出来ぬ状況となってきたのだ。

しかしそれでも、嵩む交通費をどうにかやりくりして色々食いつぶしつつ、一店一店を、まるで深海に素潜りで潜水して、海底の宝石を拾って来るように、各地方を訪ねては調査して戻って来るのを、根気良く阿呆のように繰り返した。つまり、毎年“未踏店の欠乏”を感じても、調査をまだ続けられていると言うことは、どうにかそれをクリアして来たことになる。クリアしたからには、さらに訪ねるべきお店は、より遠くになってゆくことになる。つまりは己の神経と交通費感覚を麻痺させ、航続距離をだましだまし延ばし続けているのである…。

 新発田・日光・米沢・宮古・鶴岡・柏崎・船引・大垣・益子・福井・東岡崎・電鉄石田・名取・石巻・保原・大形・伊豆高原・和歌山・三つ峠・円山公園・滝川・百合が原・神戸・白河・二川・相馬・尾張一宮・那覇・新下関・黒崎・鹿児島・富士・西那須野・新安城・武庫川・蔵王・田沼…。もはや、字面では何処の地方か分からぬ見知らぬ街を、古本屋を求めて多く訪ね歩いて来た。古本屋を目標にしていなかったら、一生縁の無い土地として、過ごはずの場所ばかりであると言えよう。そんな初めての土地で、見たことのない景色を眺め、空気を吸い、聞いたことの無いイントネーションの言葉に接し、古本屋で本を買うことは、やはり至高の体験なのである。

段々と、その麻薬的快楽に溺れ、地方に行くことが己の使命であるように思い、非日常であるはずの旅が日常となり、次は何処に行こうかと常に考えている…もはや“何処に行けるか”ではなく“何処に行こうか”となってしまっているのである! タガの外れた我慢比べほど恐ろしいものはない。まるでギャンブルにのめり込むように、神経と正気を麻痺させ、賭け金を際限なく積み上げるが如く、地方の古本屋に向かってしまう自分がいる…あぁ、この先私は、一体どうなってしまうのだろうか…。しかしそのような我慢比べを継続した結果、今まで未踏だった、福井・和歌山・鹿児島・沖縄に足跡を残せたのは大きな収穫と言えよう。

 その上、ここまで活動が派手になったのは、年末に満を持して発売した初の著書『古本屋ツアー・イン・ジャパン 全国古書店めぐり 珍奇で愉快な一五〇のお店(原書房)』の存在が大きい。己の孤独な調査活動がある程度認められ、本と言う形になったのは、大変に喜ばしいことであった。その余勢をを駆り、ますます古本屋ツアーに狂奔しているのである。単行本を出した時に、よく『ブログはもうやめちゃうんですか?』と聞かれることが多かった。しかし私の心は、本を出して満足するところに決して留まらず、より一層火が激しくなり、ゴウゴウと燃え上がったのだ!

もっと古本屋を!と。だから今現在2014年の始まりは、とても恐ろしいことになってしまっている。そのままのペースで一年進めば、単行本の発売などでは補填出来ないほどの、確実に何らかの破滅を迎えそうな勢いなのである…さすがにちょっとペースダウンを…いや、そんな日和っていたら、間に合わないお店も出てくるはずだ! 早く見に行かなければ! もっと遠くへ! などと日々葛藤し、眠れぬ夜を過ごしている。

 そんな風に無闇に何かに駆り立てられるのは、もちろん未知の古本屋の魅力が大きいのが当然であるのだが、近年は閉店への恐れも大きかったりする。2013年は、今まであるのが当然だったお店たちが、大衆店・名店・老舗店を問わず、店舗を畳んでしまう事例が、数多く起こった年でもあったのだ。また、チェーン店・個人店問わず、大型・中型のリサイクル系のお店が、次々と閉店しているのも、そんな危機感に拍車を掛けているのであろう。

勇気ある新店も多数開店しているのだが、やはりある時代をがっちりと支えて来たお店たちが、表舞台から去ってしまうのは、とても寂しいことである。だが先述した新店と共に、新たな販売形式も登場しており、古本の世界は粘り強く、タフに広がり始めている。プロ・アマ・リアル・ネット古本屋問わず、カフェや雑貨店や洋服屋それに公共施設などで棚を借り、寄生あるいは共生という形で古本を販売することが、目立って来ているのだ。以前からその萌芽はあったが、この年はそれがより顕著になったと言えよう。浮き沈みや切り替わりが激しく、なかなか調査しづらい対象ではあるが、古本が並んでいる限り、そこは訪ねるべき新たな形式のお店であることを、私は信じて疑わない。

 また、東日本大震災以降の、関東?東北太平洋沿岸古本屋消息調査も、常にツアーの重要なテーマとして存在している。長い時間をかけて、銚子・いわき・宮古・石巻・塩釜・相馬などを訪れ、力強くたくましく古本を売り続ける姿を目にして来た。2014年1月には、早々と釜石に行くことが出来たので、次は青森県初ツアーで八戸のお店を訪ねようと、固く心に誓っている。

 このように、色々悩み楽しみ、文句は言いながらも、結局は古本屋を目指す日々を、今年も継続して行くことになりそうである。最後に本を出したことにより、気付いたことをひとつ。それは、私が実は『変わり者』だったと言うことである! 今まで『古本屋ツーリスト』としての顔は、いわゆる古本好きの方しか知らなかったので、その行動や蔵書量についてなど、特に『おかしいですよ』などと指摘されることはなかった。

しかし!本を出したことにより、周囲のあまり古本と関わらぬ一般の人々にも知れることとなったのだが、単行本を手にして、目次を眺め掲載の部屋の写真を見て、驚かれ笑われ、『おかしいよ』『普通じゃない』『変わってるね』『前からおかしいと思っていた』『毎日?毎日古本屋に行くの?』などの言葉をいただくことになってしまった…あぁ、そうか。私は変わり者だったのである…。今年も全国の古本屋さんを調査して回り、変わり者の度合いをより一層深めて参ります。

 それと贅沢にもうひとつ望みを上げるとしたら、古本屋さんで自分の本を、古本として買ってみたい…本が出来たことにより新たに生まれた、古本屋ツーリストとしての真剣な思いである。





『古本屋ツアー・イン・ジャパン』
日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。トマソン社のリトルプレス「BOOK5」で『新刊屋ツアー・イン・ジャパン』を、webマガジン「ゴーイングマガジン」で『均一台三段目の三番目の古本』を連載中。2013年12月、ブログ記事を厳選しまとめた『古本屋ツアー・イン・ジャパン 全国古書店めぐり
珍奇で愉快な一五〇のお店(原書房)』を発売。
http://blogs.dion.ne.jp/tokusan/
http://www.harashobo.co.jp/


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