書物は、モノとしての形や大きさ、紙などといった物質と、そこに記されている内容(テクスト)という文字情報からなる(堀川貴司『書誌学入門』)。文学研究の場では、どちらかというとテクスト研究に重きの置かれていることが多い。しかし、すでに書誌学の成果が語っているように、書物に残された痕跡により、その本が何故ここに存在しているのかということや、そこに関わる人的ネットワークや知の来歴、背景にある政事やカネの動きをリアルに感じることが出来る。書物という物体そのものが、人々の営みを伝えるメディアなのである。
また、書物やそこに記されたテクストの背景には、様々な「知」の基盤が存在している。既存の学問分野の枠組みはすでに窮屈なものとなっていて、例えば文学研究のためには所謂「文学」ジャンルの書物を繙くのみではなく、その書物をとりまく文化圏の「知」の状況を把握するために様々なジャンル・様々なメディアへ目を向ける、という動きが盛んになっている。書物が織りなし、描き出す世界は限りなく広いのである。
この情報の宝庫である書物、そしてそれらをとりまく文化を総合的に捉えることで、人類と「知」のあり方を考えていくこと、それが『書物学』創刊の企図である。すでに本メールマガジンの読者諸氏はその(マゾヒスティックな)愉悦を堪能していることと思うが、この書物の世界を歩くのは一筋縄ではいかない。そこで、書物を愛し、書物に淫してきた諸先生方に水先案内人として書物文化を考えるための様々なヒントをご教示いただく場を設定したという次第。豪華メンバーによる月に一度の書物講義を存分に愉しんでいただければ幸いである。
なお、当然のことながら、デジタル化によって様変わりしつつある状況に対応する新たな「書物学」も模索していく必要があろう。この点については、第二巻に長尾真先生よりご寄稿いただき、刺激的なご提案を示していただいている。今後、この点についても情報発信源として機能していければと考えている。
ところで、当社では『書物学』と同時に、『DHjp』という定期刊行物(月刊)も創刊している ( http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100300 )。
「DH」とは耳慣れない向きも多いかもしれないが、「Digital Humanities(デジタル人文学)」の頭文字をとったもの。これを冠した国際学会連合も立ち上がっており、新たな学問の潮流として既に等閑視できないものとなっている。一見『書物学』と相反するような内容・テーマと受け取られるかも知れないが、モノとしての書物を考える上で、現在において最も重要な参照軸でもあり、表裏一体の問題系を有している。双方の連環をもって、「知」と「学(楽)」の総体を捉えるものになればと考えている。
『書物学』創刊号(第一巻) 書物学こと始め
勉誠出版 定価1575円(税込)好評発売中(毎月刊行)
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&cPath=9_29&products_id=100313
※デジタル版(販売価格1000円) http://e-bookguide.jp/item/bs5852070100/
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