敗戦を3歳で迎えた私のような世代には、戦後史は自分史と重なってくる。そんなことから自分史を重ねながら2011年に『革新幻想の戦後史』(中央公論新社)をまとめた。この著でも『世界』や『中央公論』『諸君!』などを取り上げたが、戦後の思潮を考えるには、論壇雑誌つまり総合雑誌の総合的研究がなくてはならないと思うようになった。
たしかに「総合雑誌の研究」(『流動』1979年7月号)のような明治以後の総合雑誌をすべて網羅した論文はある。しかし、これは総合雑誌の通史である。一方、各論的研究、つまり個別の総合雑誌についての評論、あるいは単著もあるが、これだけでは単体の綜合雑誌研究である。そこで、一冊の本にできるだけ多くの総合雑誌を取り上げ、読者が雑誌相互を横断・接続(connectivity)することで、戦後の思潮の場の攻防が俯瞰できるような本をつくってみたいとおもった。
しかし、このような本はひとりの力では生まれない。手間暇の問題もあるが、それ以上にテイストが合う雑誌と合わない雑誌、得手雑誌と不得手雑誌があり、一人では後者系の雑誌の扱いがぞんざいになってしまう懸念がある。そうおもい、京都大学の佐藤卓己さん、稲垣恭子さんに相談し、研究会を立ち上げた。メンバーには、上記3人を中心に、8名の参加を得て計11人でスタートした。こうして本書は出来上がったが、取り上げた雑誌は『中央公論』『文藝春秋』『世界』など10種類で、これに「ネット論壇」を加え、巻末には日本の「論壇雑誌年表」をつけている。
もちろん戦後の総合雑誌を網羅することはできなかったが、論壇の「中心」雑誌、「周辺」雑誌、中心への「対抗」雑誌群をカバーしたとおもう。本書によって読者が老舗総合雑誌の衰退やあらたな総合雑誌の勃興をつうじて戦後の論壇史を追体験し、それをつうじて戦後日本のインテリ界=中間文化界の輿論と空気を読み取り、戦後思潮の攻防と変遷史を考えるための一助にすることができれば、執筆者一同これに過ぎる喜びはない。ご一読、ご高配のほどよろしくお願いいたします。
執筆者を代表して 竹内 洋
以下のように、本書をめぐるシンポジュームを開催します。ご参加ください。
時間・プログラムなど詳細は、6月下旬以後の関西大学東京センターのホーム
ページでご覧ください。
日時:8月22日(金)午後
会場:関西大学東京センター(東京駅日本橋駅すぐ、サピアタワー9階)
http://www.kansai-u.ac.jp/tokyo/map.html
テーマ「教養メディアの輿論と世論―『日本の論壇雑誌』から考える」(仮)
竹内洋
『日本の論壇雑誌』 竹内洋、佐藤卓己、稲垣恭子編
創元社 定価(税込):3,780円 好評発売中
http://www.sogensha.co.jp/booklist.php?act=details&ISBN_5=30048
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