最近のアイドルブームから、書店には「アイドル」を様々に論じた本が並んでいる。現在のトップアイドルグループであるAKB48を論じた本も多い。それらを読んで感じることは、論者が社会学者であったり、社会学の用語を使って論述したりしていることが多い、ということである。これは、アイドルに限ったことではない。流行のドラマ・マンガやSNS等、現代に登場してきた最新の現象に対して、その論評を社会学者が担うことが多い。
一方で、文芸評論家を始めとした文学畑で育った論者は少ない。私の認識では、戦後のある時期まで、文芸評論家と呼ばれる人々が、様々な文化現象を解釈してきた歴史があると思う。現在は、その領域を社会学が担い、若い読者層の支持を得ているようだ。このことは、大学における文学部の退潮傾向とも無関係ではないだろう。文学部の教養を持つ論者が行う議論が、説得力を獲得しにくくなっている。
私自身は文学部の出身だが、社会学者が論じるものを読んで、面白いと感じることは多い。しかし、その一方で、歴史的な視点が少ないと感じることがある。我々が新しいと感じるものであっても、それは当然過去の様々な蓄積から生まれてきている。その系譜を丁寧に辿ることによって、現代の事象の位置付けはより明確になるはずである。
拙著『幻の近代アイドル史』では、従来1970年代に始まったとされるアイドル史を明治期にまで遡り、現在のアイドルブームに似た現象がその頃から見られることを書いている。明治から昭和前期において、「アイドル」という言葉はもちろん存在しなかったが、「アイドル的存在」は容易に見出すことができる。「総選挙」のようなファン投票もあったし、ファンたちが観客席から自分の好きな「推しメン」の名前を絶叫することもあった。かの川端康成も「推しメン」目当てに劇場通いをしていたのである。
このような歴史を踏まえた上で、現代のアイドル現象を過去に連なるものと見るか、全く新しいムーブメントとして見るかは、それぞれの論者が議論を展開すればよいと思う。ただ、何事も歴史を踏まえた方が、より説得的な議論が展開できるのではないだろうか。
拙著が現在のアイドル論に対して、何らかの貢献ができればうれしい。
『幻の近代アイドル史』 笹山 敬輔
彩流社 定価 1800円 + 税 好評発売中
http://www.sairyusha.co.jp/bd/isbn978-4-7791-7014-0.html
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