どうにか乗り切った感のある2013年が終わってすでに半年。本を出したことにより気負い過ぎたせいか、2014年の古本屋ツアーは、今までにないスピード感で激しく幕を開けてしまった。一月は松の内に愛知・熱田の伏見屋書店や宮城・角田の買取屋本舗などに鈍行列車で足を延ばし、さらには能代・釜石・京都・豊橋・須賀川・松本・八戸・益子と、四月まで留まることを知らず、狂ったように地方の古本屋を訪ね歩いてしまう。だが、さすがにこんなペースでツアーしていたら、あっという間に破産してしまう。そんな単純なことにようやく気付き、逸り高揚し続けたままの心にブレーキを掛け、危ういところでペースダウン。結果、それが足下である東京に、再び熱い視線を向けるきっかけとなったのである。
ほぼ巡り尽くしてしまった、それほど交通費のかからぬ東京と関東を、新たなブックハンティングの猟場として捉え直し、まだある程度未踏のお店が残る神保町を中心にツアー計画を立て、古道具屋や骨董屋、リサイクルショップにも熱い視線を向け、時には救世軍のバザーにまで足を運んだりした。古本の影を街のそこかしこに求めて、ハイエナの如く都会を彷徨い続ける。未踏の古本屋を訪ねてレポートする本義からすれば、多少零落したようなミジメな気持ちになることもあったが、足を運ぶ所に古本がある限り、これはこれで楽しかった。特に神保町は、まるで勤め先でもあるかのように通い詰め、入り難い専門店にもエイヤと飛び込んだり、店頭台を漏らさずパトロールしているうちに、この『本の街』の懐の深さと新たな魅力に徐々に気付き始め、さらにお店と言う『点』だけではなく街と言う『面』で捉える楽しさを味わうこととなった。
また、テーマを決めたり、独自の古本屋ルートを作成して巡ったりと、改めてツアー済みのお店を訪ねることを意識し始めたのも、この頃からである。ブログのネタを捻出するための窮余の策ではあったのだが、しばらく行っていなかったお店を訪ねる楽しさや、以前とは違った視点で棚を見る喜びは、時に思わぬ掘り出し物を掴ませてくれたり、遅ればせながら何店ものお店の棚の鋭さに、ようやく気付けたりする驚きがあった。つまり、自分次第で目の前の古本屋さんは、大きくその用途と在り方を変えるのだ!と、今更ながら喜んだわけである。 また新たに開店するお店と、様々な方からのタレコミによってもたらされた『知られざるお店』たちは、まさに暗闇に輝く希望そのもので、三鷹「水中書店」東松山「あふたーゆ」新所沢「午後の時間割」益子「ハナメガネ商会」東松原「瀧堂」蒲田「石狩書房」秋葉原「星雲堂」茅ヶ崎「ちがりん書店」清瀬「臨河堂」神保町「二十世紀」などは、ツアーに大いなる潤いをもたらしてくれた。
さらに時にはその苦しさが、思わぬ記事の変種を生み出しもした。文学館の展示である架空の古本屋さんを訪ねてしまったり、手元に集まった『古書店地図』について考察したみたり、映画雑誌に載っていた一枚の古本屋さんの写真から恋文横丁にあったお店を妄想してみたり、古本を買いに行く理由について真剣に考えてみたり、殿山泰司晩年行きつけの古本屋をトレースしてみたりと、古本と古本屋に関わる事柄ならば、自由に想像と妄想の翼を羽ばたかせるようになっていったのである。
このように自ら濃密さを増すように行動した半年が経過したわけであるが、古本屋の神は、そこにさらにドラマチックに悲劇のエッセンスを振りかけて来た。それは閉店するお店の多さである。毎月一・二店のかつてないハイペースで、有名無名店問わず、閉店情報が飛び込んで来るのである。すでに、新宿御苑「國島書店」静岡「悠遊堂古書店」須賀川「BOOKランド須賀川店」国立「谷川書店」所沢「ほんだらけ所沢本店」早稲田「寅書房」浅草「浅草古書のまち」中野新橋「猫額洞」東銀座「新生堂 奥村書店」祐天寺「赤い鰊」大阪「古書ゆうぶん」などが、セールを華々しく行ったりしながら、惜しまれつつ表舞台から去って行った。大変に悲しむべき事態であるが、同じ時代に存在して棚を見られたことを、ただただ感謝し、それぞれの歴史の終幕に万雷の拍手を贈りたい。
しかし恐ろしいことに七月にも、その古本屋の閉店は数珠つなぎに続いている。下半期には歯止めがかかると良いのだが。 以上は、現在のツアー状況であるが、正直言うと、やはりもっともっともっと地方の未知のお店を訪ねまくりたいのが本音である。そこにブログの本質もあるし、何より自身がそれを求めてやまないからだ。少し力を溜める、我慢の時であるのは分かっているが、夏の青春18きっぷを皮切りに、またぞろ地方には足を延ばして行きたいものだと、常に無闇な野望は抱いている。
だが、そんな東京に縛り付けられた暮らしでも、逆にそれが功を奏すこともあった。秋を目指して某出版社から、二冊目の本を出すことが決まり、現在必死に編集中なのである。もちろんブログ記事を元に構成する本ではあるのだが、前の本とはそのテーマも読み方もまったく異なる、前人未到(おそらく)で前代未聞(おそらく)のものとなる予定である。どうかみなさんの心の中に留めていただき、発売の暁にはこれがその本であったかと、記憶の奥底から埃を払って引き出して、感慨を深くしていただきたい。
苦しみながらも楽しく、どうやら道は続いて行く。その先には、まだまだ古本屋さんがあるはずなのだ!あぁ、このようにして私の人生は、ますます熱くたおやかに、古本屋さんにまみれて行くのである。下半期も、がんばります!
『古本屋ツアー・イン・ジャパン』 2008年5月からスタートした、日本全国の古本屋&古本が売っている場所の、全調査踏破を目指す無謀なブログ。 お店をダッシュで巡ること多々あり。「フォニャルフ」の屋号で古本販売に従事することも。 ブログ記事を厳選しまとめた『古本屋ツアー・イン・ジャパン 全国古書店めぐり 珍奇で愉快な一五〇のお店(原書房)』が発売中。
http://furuhonya-tour.seesaa.net/
|