『猫本屋はじめました』

書肆 吾輩堂 大久保京

 本書は書店や古本屋での勤務経験が全くなかった人間が、猫に対する愛と妄想の果てに作った「書肆 吾輩堂」の開業から現在に至る までを綴ったものです。著者である私や対談相手はもちろんのこと、編集者やデザイナー、カメラマン、ライター、そして校正者に至る まで猫好きの集団で作り上げた渾身の一冊と自負しています。出版の話が来た時は「開業して日が浅いし、書くことはないのでは…」 と心配しましたが、編集者と打ち合わせを重ねるにつれ、あれもしたいこれも書きたいという事が膨らみこのような形になりました。

そして『吾輩ハ猫デアル』についての原稿を書いている時に奇跡が起きました。その初版本、それもカバー付3冊揃とのご縁という僥倖に恵まれたのです。古書の大市でも滅多に出ない貴重なもの、それも畏れ多くも店名に拝借した本ですから、これはもう猫神様と漱石先生のお導きだとしか思えません。

2013年2月22日(猫の日)に私はおそらく日本初の「猫の本のみを扱う書店」を開業しました。書店といっても資金も蔵書も満足にないので、インターネットでのスタートです。新本・古本両方を扱い、大人のための猫雑貨も販売しています。そもそも猫と同じくらい本が好きだったという事もありますが、愛猫を朝に夕に眺めるだけでは物足りず、もっと猫について知りたい、猫のことが書かれた本を読みたいと思っていました。そして「猫に関する本(=猫本)だけを集めた書店があればいいのに」と身勝手なことを考えるようになりました。しかし、それから約20年後によもや自分がこのような店を開くとは思ってもみませんでしたし、ましてやそのことが本になるとは…。

詳しい内容としては、私が福岡古書組合に入り、組合員に怪しまれながらもいかにしてこの猫本専門書店を立ち上げたかを軸に、開業後の失敗談や仕入れ旅行先での珍道中、インターネット書店ならではのお客様との交流や猫店員の奮闘ぶりなどを述べています。 そして、厚かましくも猫好きの文学者・画家(金井美恵子・久美子氏)や美術家(横尾忠則氏)という超豪華ゲストに体当たりして「猫」について熱く語った内容や、私が愛してやまない15冊の猫本へのラブレター(解説)も盛り込みました。

さらに巻末付録として明治以降にわが国で出版された国内外の猫本データーを収めました。どの時代にどのような猫本が出版されてきたか俯瞰できれば、また猫本を探している方の参考になればという思いからです。(それでもページ数の都合でかなりの本を割愛したのが悔やまれてなりません) 書きながら特に関心があったのは「作家と猫の関係」です。なぜ動物の中で猫だけが突出して古今東西の文学者や美術家を魅了してきたのか。作家たちは猫に何を見出し、何を求めて作品を産み出したのか。拙著でその答えが出たとは思いませんし、そもそも猫とは何であるのかはまだ私にも分かりません。だからこそ猫についてさらに知りたいと思うのでしょう。

私は猫本屋として、読者が猫をきっかけとしてさらに作家のいろいろな作品に興味を持ち、本の森に分け入っていただければこれ以上の幸せはないと思っています。本書は猫と本を愛する全ての人に捧げる1冊です。

書肆 吾輩堂 大久保京



 『猫本屋はじめました』 著者 大久保 京
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