−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年4月号)

 

店売り主体を選んだ側から

川崎・近代書房
山本豊彦

 

 二月某日の市場の日、同業4人での昼食の折に、ネット販売も古書展等の外売もせずに、店売りだけで生計を立てている店の割合という話題になった時、ネット、外売も併用している麒麟堂さんとなぎさ書房さんが口を揃えて「1割あるかないかでしょう」というご意見でした。私(52才)と同年の長倉屋書店さんは共にネット、外売はせず、支店1軒を持ちそれぞれ4人の従業員に助けられて夫婦で働き家族5人の生計を立てている似た者同志。しかし、風俗物を置かずにという条件を加えると私達もはずれ、神奈川では皆無かも知れない。長倉さんはその比率がやや高いので深夜営業を余儀なくされている。この20年程の間の変容には驚くばかりだ。
 二〇〇一年、ほとんどの古書店と同じく売上げ低下の続く中、打開策としてネット販売を半年程かけて検討したのだが、結論として店売り主体でいく事を決め、その年の12月、隣接ビルに店舗を借りて支店を開設した。離れた町の支店なら似た品揃えでもよいが、20歩ほどの距離では違える必要がある。道行く人を眺めていると半数位は女性なのでレディース店とした。
 ネット販売は言う迄もなく最大の市場で、専門店にとってはほとんど必須条件、そこで思う存分力を発揮している同業者を見ていると魅力だが、自分は店売りが性分にあっているし、やはりこの町の古書店としてあり続けたい。
 立地条件は幸にも駅前の大通りに面していて人通りもあり様々なお客さんが来店する。近くに大学がないので極端な専門書は置けないが、取扱い分野はなるべく幅広くと心懸けている。値付に関しては元々ディスカウントの商売なのだから普通の商品はできるだけ安くしているつもりだ。買取りについてブックオフ等のチェーン店と違うのはマニュアルが無いという事。市場での仕入れ、特価本、店での買取りは全て自分1人でするのでマニュアルは必要ない。お客様から買値の基準を聞かれる事もあるが「相場もありますが、主に当店の売り値と売れゆきからです」と答えている。均一本や売り値の安い本はともかくとしてなるべく売り値の5割前後で買うようにしている。(もちろんダブついた本や市場出品となるものは例外だったりこの辺の事を書き出すと長くなる)
 店買いは年間5000件位あるので市場の日以外は店にいて余程のものを除き宅買いには行かない。家族には申し訳なく思うがこの四半世紀、日曜日に出掛けた記憶がほとんど無い。そういった事情でブックオフのように「一冊からでも」という買取りは高価なものを除いてできない。件数が倍に増えれば食事をするひまも無くなってしまう。それよりも買取りに関しては近隣の方々の蔵書の整理という建前でしているので読書量、蔵書量に応じてある程度の期間ごとにまとめてお持ちいただくようにお願いしている。(持込みの場合宅買いよりも高く買える)新刊書は余り古くならぬ内に、蔵書家の方は1年ごとの見直しで蔵書のレベルアップをおすすめするという具合である。古書の日や誕生日に本を売ってお食事をというキャンペーンはどうだろうか。
 売り値の価格破壊を謳う店は当然買い値も同様であるに違いない。そうならぬように努力したい。好きでしている商売であるから、地域に役立ち、この町にこの店があってよかったと思われるのが理想だ。
 店舗のディスプレイのノウハウについては個々の店の努力やセンスによるので述べる必要はないと思う。
 読者の方々には、良心的な店はもとより、特に全古書連に加盟して市場で修練を積み全国の各町で頑張っている店のご利用と応援を心よりお願いしたい。

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