−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年5月号)

 

インターネット
「日本の古本屋」の現状

杉並区とんぼ書林
藤原栄志郎
http://homepage3.nifty.com/tomboshorin/

 

 以下は、昨年十月九日に、「古書の日」(10/4)記念イベントとして開催された・古本屋になるには一日講座・での藤原氏のお話。「東京古書組合月報」二〇〇六年二月号からの再録です。
 とんぼ書林はネットでやっているのですが、扱っている分野が、自称日本初の女性問題専門のネット古書店とうたっています。自分自身のこだわりで出版や映画など、いくつかやっています。
 うちの場合、店舗でやろうと思った時に先輩の古本屋さんから、店舗はお金もかかるし大変だよと聞きましたので、それでネットでやってみることにしたのです。
 私は出版関係の仕事をしておりました。古本屋になる前に開業セミナーに通い勉強しました。とんぼ書林を立ち上げるビジネスプランシートを作り、中小企業診断士にチェックしてもらったのですが、古本屋という業界はなかなか知られていませんので、いくら中小企業診断士に聞いてもあまり答えにならないんですね。自分のビジネスプランシートを作成したことが、一番良かったことかなと思います。競争相手はどこに設定するか、一年後、二年後はどうするのかなど、いろいろな項目があるのですが、それを自分を埋めていくというのが自分自身の棚卸しになりますので、サラリーマンをやっている方などは、本当に古本屋をやってみたいのかをチェックするのもいいんじゃないかなと思います。
 私は女性問題専門なので、女性のお客様が多いかなと思ったのですが、6〜7割くらいは男性の方ですね。女性向けにきちんとした対応をしなければいけないと思い、本にパラフィン紙をかけて、請求書を入れ、梱包材料に入れて、冊子小包で送っています。切手は記念切手にしています。ネット古書店でも、二万点近く登録している人などは、人を使わないとやっていけないんですよね。注文が来ると返信メールを送ったりするので時間もかかります。うちの場合は女性を意識したので赤の用紙(振込手数料は当店持ち)でお金を振り込んでもらっています。自分で振込手数料を負担しています。これはちょっと失敗でした。手数料は一〇〇円くらいですが件数が多いとけっこうな金額になります。
 東京古書組合はいくつかの支部に分かれていて、私は中央線支部の荻窪班です。その荻窪班に所属する興居島屋さんという本屋さんが発起人になって荻窪、西荻窪、吉祥寺の頭をとって「おに吉」と言いますが、その古書店案内を作ることになり、編集長が古本ライターの岡崎武志さんです。「実は私は古本屋さんの家に住んでいる」というエッセーで直木賞を受賞した角田光代さんが中味を書いてくださいました。角田さんはある古本屋さんの上に住んでいます。角田さんが直木賞をとったので岡崎さんは次号にも次の直木賞を受賞する人にエッセーを書いてもらいたいと言っています。ただの古書店マップではなく、おもしろい古書店マップを作っています。
 うちではこの古本マップをお客さんに配っていますがけっこう反応が良く、ネット専門ですが遠くから出張のついでに古書マップをもらいに来る方もいます。私はネット書店として、古書マップを配ることによって価値を高めていると思っています。
 ネット古書店の成功のポイントということで、三点考えました。
 一つはネット古書店の場合は登録点数が最低でも五千〜七千五百点くらいは必要だと思います。
 二つ目は少し矛盾しますがネット通販だけにこだわっては、最初は食べていけないことです。古本屋の営業形態というのはいくつかあります。店舗、自家目録、共同目録、ネット通販、即売展、デパート催事などに分けられますが、やってみて思ったのはこれだけがいいという考え方はしないで、幅広くものを考えて、古本屋をやるのが一番いいと思います。
 「日本古書通信」の昨年一・二月号が「わが古書目録を語る」という特集で、自家目録専門でやっている方の文章が載っていますので、これをお読みになれば自家目録の現状や様子が分かると思います。私も古本屋になる前に古書展で古書通信のバックナンバーを買いました。最後のほうに古書目録が載っているので自分の関係ありそうな女性関係のものや、映画、出版関係のページを全部ファイルしました。古本屋というのは奥が深いので、過去の歴史を勉強するのは大変価値があることだと思います。
 三つ目のポイントは、専門店化です。専門店ではないと何を買っていいのか分からなくなるので、専門的に特化することが必要だと思います。そしてもう少し幅を広げるようなものを幾つか持って、ネット展開をすればいいと思います。仕事なのですが、自分が楽しくなるような発想でやっていただければと思います。
 私はドメス出版というところにこだわっていて、ここの本を出来るだけ集めているのですが、市では良い本は高くてなかなか買えないんですね。この前も市場に出ていましたが、私が売ろうと思っている値段より高く入札されて買えませんでした。
 この間お客様から電話がかかってきて、ドメス出版に電話したら「とんぼ書林にあると思うので、そちらに電話してみて下さい」と言われたそうです。最近こんな感じの電話が増えました。
 私は共同目録にも二つ参加していますし、一年くらい前から即売展にも参加しています。売り方はいろいろあるので、組み合わせてやってみるのがいいんじゃないかと思います。
 あと立地ですが、まずは家賃が安いことです。固定経費ですから売れようと売れまいと人件費なみに毎月出ていきます。私のところは十坪ですが、移動棚を使うとだいたい一坪で千冊くらい本が入りますので十坪だと一万冊くらい本が入ります。移動棚は五台くらい使っていて、あとは壁面に棚を設けて並べています。坪数は十坪くらいは必要だと思います。
 事務所を二階や三階にするのはおやめになったほうがいいと思います。本は本当に重いので運ぶのが大変ですから、一階にしたほうが良いと思います。
 「日本の古本屋」の現況ですが、加盟しているのは七百店舗程です。東京組合員が三分の一、地方組合員が三分の二くらいです。登録データ数が約420万点です。この数を聞くと、もう自分が持っている本はみんなあるのではないかと思うかも知れませんが、420万点すべてが違う本ではないんです。新刊は年間約7万点出ています。出版ニュース社が出している出版年鑑をみると過去三十年間で136万点です。これには雑誌、自費出版などは含まれていませんので、全体のまだ一割か二割くらいしか登録されていません。
 「日本の古本屋」には探求書コーナーがあるのですが、一日百点くらいの探求書がありますので年間だと三〜四万点くらいが探求書として来るわけです。「日本の古本屋」に載っていないので、お客様は探求書として出すのですから、まだまだ登録されていない本はたくさんあるわけです。
 注文は、「日本の古本屋」からだけではなく、FAXや電話、葉書での注文もあります。一点あたりの単価は約三千円くらいです。「日本の古本屋」には月に約5万件の受注がありますが、もし登録点数が五千点だと売上は25万から35万円になります。
 最近の出版業界の傾向として新刊はたくさん出るけれど、刷り部数が少なくなっていますから早く品切れになります。古本屋では新刊屋さんに売っている本の値段より高く付けられません。しかし品切れになってなかなか手に入らなければ、値段は高く設定することも出来ます。本はたくさん出ますが品切れになれば、古本屋の活躍する場はけっこうあるのではないかと思います。

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