−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年6月号)

 

“探偵趣味”一筋

東京杉並・芳林文庫
島田克己

 

 手元にある当店目録『芳林文庫古書目録』第一号・二号(共に'89)の後段に当店の“主要取扱い書物”として
1・大衆文芸書(a.探偵小説・b.SF小説……e.児童書……)
2・勝負事関係書(a.将棋……)
3・その他古書一般
が挙げられている。開業二年目に発行した20頁程の目録ではあるが、記録によると全体の六割程が売れた。しかしその内訳は圧倒的に“探偵小説”と“児童書”であった。
 そもそも故あって“将棋本”の蒐集からノメリ込んだ古本の世界。(説明すると長くなるので端折るが)開業時は現在とは異なり、店舗が無いと古書組合に入れない規則が有り、一応店の体裁を整え“将棋書”を筆頭に囲碁・麻雀・競馬・相撲等の“勝負事関係書”と副次的に集めた“大衆文芸書”及びその他の本を寄せ集めて棚を埋めた。しかし店売りは惨憺たるもので、初に書いたように目録販売に活路を見い出さざるを得なかった。その目録販売にしても二枚看板で力を入れようと考えていた“勝負事関係書”が全く無視され、序に集めた“探偵小説”と“児童書”に人気が集中したのには驚かされた。
 商売のある程度の方向性が見えて来たので、名簿の充実のためにデパート展を筆頭に積極的に催事に参加した。そのお蔭で徐々にではあるが上質のお客様を確保することが出来、又仕入れにも大きく役立った。
 当時は“探偵小説”を専門に扱うような古書店は無く、催事の都度少しづつではあるが評判を呼び(毀誉褒貶は相半ばしたが)お客様は勿論のこと、同業者の間にも屋号が滲透していった。方向が決まればガムシャラに突っ走るだけ。“探偵小説”と“児童書”をメインに据え、本腰を入れて集書に努め、平成八年に六年振りの自家目録第三号を発行することが出来た。その時から目録のタイトルに『芳林文庫古書目録 探偵趣味』を謳い、“探偵小説”中心の目録であると宣言した。当初は単に売ることのみを目的とした目録であったが、いつの間にか“探偵小説”の奥行きの深さに嵌まり、巻頭に“特集”頁を設けて私自身が楽しんで目録を作り今日に到っている。(尚、現在作製中の18号の特集は「探偵小説のヘンな本」です)
 開店休業みたいな状態にある店は事務所兼倉庫となり、偶に来店したいというお客様があるとそのスペースを確保するのに大慌てをする。その他に倉庫を二ヶ所借りており、次に発行する目録のために“探偵小説”の在庫集めをセッセとしている。当店の目録は第三号以来基本的には作家別・賞別・全集叢書別・雑誌別等に分けられ、編集はし易いがその分在庫をシッカリと持たないと格好が付かないという弱点がある。そのため年に一回、多くて二回しか発行出来ない。楽しんで目録作りをするのには頂度良い回数かも知れない。
 バブルの余韻が残っていた頃までは可成りの高額商品も良く動いたが、昨今は珍なる物、安価な物、もしくは差し換え用の極美品に注文が重なり、当方との思惑の違いがハッキリして来た。インターネットの出現により従来のまゝの商売では落着いてやって行けなくなった様だ。ネット上の書込みや変な編集本で突如脚光を浴びた作家や作品に振り廻されては堪らない。今更火中の栗を拾いプライスリーダーに成る気は無い。
 約二十年間に渡って“探偵小説”を主に扱ってきて感じるのは、その奥行の深さである。未だに解明されていない点や、あやふやなまゝ見過されてきた事などが多々ある。この先その一つでも検証出来れば“探偵小説”専門店の親父としては大満足である。好きな本に囲まれ、酒でも飲みながら“探偵小説”談義に花を咲かせるのが夢である。

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