−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年7月号)

 

開拓の余地あり

 東京神田・西秋書店
西秋 学

 

 「アンダーグラウンド・ブック・カフェ 地下室の古書展」(以下UBC)は二〇〇三年十月から始まった新しい古書展である。同年七月に東京古書会館がリニューアルオープンした。「箱」が新しくなったのなら、「中身」もと、既存とは違う古書展を目指した。地下の会場は多目的ホールとして、音響、照明、スクリーン、額展示用のレールなどの設備が設けられた。これらの立派な設備をフルに使えば、おのずと新しいスタイルになるはず。会場のレイアウトも工夫した。壁面の額用スペースを生かしながら、本棚は会場の周りに配置して、中央はガラスケースやテーブルのみとして、ゆったりとスペースをとる。中央に本棚を置かないので、このスペースを利用してイベントが出来る。ロビーはお客様に開放し、カフェ・コーナーとして利用できるようにした。ロビー壁面にもレールがあるので、画や写真を展示している。音響設備があるので会場には常にBGMを流し、夜はトークショー、映画上映なども行う。二階情報コーナーも新しいスペースで、地下と連動した展示を誘致して併催している。
 新しい「カタチ」と「中身」には新しい「お客」をと、広報も色々と試している。金・土曜の古書展に来る従来の客層へは、古書会館と神保町及び各地域の古書店でのポスター掲示、チラシ配布などで概ねカバーできる。しかしながら、それら常連さん以外の未知の層へはどうだろう。古書会館はその立地と外観から、ブラリと入りやすいとは言えない建物である。日・月・火曜という日程のハンデもある。それらを克服するには、単純であるがチラシを撒いて告知するしかないだろうと考えた。新刊書店、ギャラリー、喫茶店、美術館・文学館など、「本」と直接・間接に関係しているような場所に置かせてもらった。当初はこの置かせてもらうことが大変だった。そもそも「古書展」という言葉が通じない。「古書会館」もほとんど知られていない。神保町の新刊書店でも「聞いたことあるけど、行ったことは無い」という返事がほとんどで、これはかなりショックだった。こちらが勝手にシンパシーを感じていた上記のような場所も概ね同じだった。それでも「古書会館というのは古本の『築地』のような場所で、古書展はその『場外市場』です。」と説明し、セッセと配布場所を求めて各所を廻った。単にお願いするだけでなく、相手の広報物を交換で預かるようにしている。本好きは紙好きでもあり、会場に置くチラシの類は異常に捌けが良い。そんなに短期間に大量に捌けるUBCって何?と興味と好意を持ってもらえ、結果としてそうした交流から生まれた企画も多い。
 展示と企画、広報の甲斐あって、来場者は増えている。来場者の特徴は女性と若者が多いことだ。通常の古書展では大部分が中高年の男性だから、来場した同業の多くからも驚かれた。考えてみれば、新刊書店や美術館で特に男女や年齢の偏りを感じることはあまりないから、これが普通なのかもしれない。
 若い層が増えた一因には、ちょうどその頃から普及し始めたブログというインターネット媒体の影響がある。個人の公開日記のようなものだが、発信性や情報の繋がりが強いのが特徴だ。そこに「UBCに行った云々」といった記事が載るようになった。購入した本のこと、トーク・展示の感想もあれば、何も買わなくても、会場の様子、そこで得たチラシ、コーヒーが美味しいなど、何かしら書いてくれている。どの感想も「また来たい」「面白かった」というもので、それらの記事自体が立派な広報になっているので、大変ありがたい。従来の客層に新しい層を加え、来場者、売上とも今のところ順調に伸びている。始めた当初を思えば安定感すらある。しかしまだ「古書展」「古書会館」を知らない本好き、古書好きな人は山ほどいるはず。開拓の余地は大いにあり、今後も様々な人が来られる間口の広い「古書展」を目指したい。

 日本古書通信社: http://www.kosho.co.jp/kotsu/

 

©2006 東京都古書籍商業協同組合