−日本古書通信−
掲載記事
(平成18年7月号)

 

即売会は観察される場である

群馬前橋・山猫館書房
水野真由美

http://members3.jcom.home.ne.jp/yamaneko-kan/

 

 開店から二五年間、参加している即売会は、ほぼ群馬県内に限られる。
 会場は市街地の百貨店、スーパー、郊外の大型店、新刊書店などだ。それぞれ売れ筋が違うため在庫の負担は大きいが、お声が掛かれば何でもやる。
 店も文学書や美術書が多い程度の普通の町の古本屋である。
その範囲で感じる即売会の変化はどんなことがあるだろう?
 ここでは参加店で合同目録を発行している百貨店催事について考えてみたい。
 まず同一会場での開催が不安定になった。
 前橋市では市街地の大型店で二十数年間、正月に「吉例大古本市」を続けていたが同店の撤退により二〇〇三年に終了した。地方では市街地という場が成立しなくなったのだ。
 その後、同じ地域で別の季節に開催していた新刊書店ギャラリーでの古書展が県内における中心的な催事となり、開始から五年ほどで、お客様から「夏の古本市」と呼ばれるようになった。だが、それも営業方針の変更でギャラリーが閉鎖となり、終了した。高崎市の百貨店での催事もあるが定着するまでに至っていない。
 同じ県内でも開催する地域、会場によってお客様の傾向は違う。高額な趣味書は売れるが、じっくり読む本が売れない会場もある。その逆もある。会場の変化で手探りが続いている。
 昨年からは前橋市の市街地に唯一、残った百貨店で即売会を開催している。「前橋に古本市が帰ってきた」と喜んで下さるお客様の声は嬉しいが来場者数はあまり多くない。だが百貨店側からは「普段、来店しないお客様が多いですね」と言われた。元・文学少女も含め、デパ地下では呼び込めない本好きの中高年のことだ。
 かつて古本市は、その魅力の一つとして子供からお年寄りまで、どんなお客さんが来ても、それなりに楽しめる催事だと言われたが客層は変わった。たしかに若い人が少ない。アニメや宝塚などのファンもいない。
 そして高齢化は会話を増やした。探求書だけでなく、「お宝を持っているけど、いくらになる?」などの質問、さらに本や家族の思い出話にもなる。「こんな私で良かったら!」とお話しを伺う。
 また地方では多くの人を集めることが、どんどん難しくなっている。即売会の記事が地方紙に掲載された場合、かつては会場が狭く見えるほど来場者が増えた。現在では効果はあっても二、三割増しぐらいだ。一つのメディアに反応する人数が減り、複数のメディアでの広報が必要になった。
 商品の変化で言えば店売りの傾向と同じで、一般的なコミック、文庫、児童書を持ってくる店はほとんどない。また見事に売れないのは重くて嵩張る全集物だ。
 抱え込んだ本をレジに積み上げるお客様も殆どいなくなった。目録と同じで珍しい物のピンポイント攻撃だ。但しそれが流行り物ならサイクルは短い。
 客数は少ない、売れ筋も少ない。ならば高額の商品でそれをカバーするという考え方もできるだろう。だが、ここまで来たらそんな仕入れは、しない、出来ない、やりたくない。
 自分が読みたい作家や持っていたい写真集、画集にしかお金を出せないっ。
 今更ながらだが、最近、お客様に教えられたことがある。
 私好みの文学書を一週間位の間に何度も売りに来てくれた方とその本について話していたら「やっぱり山猫さんで良かった」と言われた。
 「どこかでお会いしましたか?」とお聞きしたが違った。
 会ったのではなく見たのだと言う。古本市で猫の絵のラベルが付いている本を買い、会場にいた私を「太っているけど、きっとあれが山猫だ」と一目で分かったそうだ。そして、もし本を売るならあそこだと思ったらしい。即売会は本を売るだけではなく、店が観察されている場でもあるのだ。
 そういえば二五年前、初めての即売会で稲垣足穂を買ってくれた最初のお客様は、その後、飲み友だちとなり、今では一緒に雑誌を出している。
 というわけで即売会、恐るべし!

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