連続イベントの最後にふさわしい展示会「乱歩が蒐めた書物展」が明治古典会・七夕入札会とともに併催され、同業者を含め多くの入場者をみた。
探偵作家江戸川乱歩は、古典籍から洋書まで幅広い範囲の蔵書を持っていた。それらの貴重な文献資料、そして自作の探偵小説、原稿類などはきちんと整理され、自邸の土蔵「幻影城」に長い間眠っていた。今回の展示では、“近代に”焦点をあて、明治初中期から昭和前期にかけての翻訳小説、探偵小説など、珍しい書籍百八十点が陳列。
地下一階の多目的ホールの会場は、小ぶりの硝子ケースを中央にいくつか配し、壁には幻影城内部の書棚の大きな写真をはりつけ、書斎の雰囲気をかもし出している。明治初期の「ボール表紙本」類などの翻訳書がずらりと並ぶ。
中でも涙香コレクションは壮観。それから『月世界旅行』ヴェルヌ、『大人国旅行』スウィフト、『英国實話孤児』ブラックなど手にとって見たくなる本が次々と眼に入ってくる。末広鉄腸『二十三年未来記』、鏡花の処女作『活人形』もあった。(これらは、和紙で包まれ乱歩自身の手で書名・著者名が記され、大切に保存されていた。)
照明を当てられたケースのひとつに乱歩自身の第一創作集『心理試験』をふくむ四冊の創作探偵叢書が燦然と輝いている。近くには戦前出版された平凡社の乱歩全集、新潮社の乱歩選集の大揃いが発行時の状態を保ったまま置かれている。その本の美しさには圧倒されてしまった。
英太郎装幀の『江川蘭子』と『明智小五郎』、『怪人二十面相』をはじめとする少年物四冊、自選集『幻想と怪奇』など乱歩の世界が広がる。
【周辺の作家たち】のコーナーで目を引くのは、夢野久作が乱歩に献呈した『ドグラ・マグラ』の署名本のようだ。
この署名本は天下にひとつしかない本なのだから。珍しいところでは同じ久作の『少女地獄』帯付、『奇巖城』蘭郁二郎、『緑の日章旗』木々高太郎など、そして『黒死館殺人事件』蟲太郎、『深夜の市長』十三、『真珠郎』横溝、『凧』宇陀兒など錚々たる作家たちの作品群があざやかな姿で出現する。
この中にいると乱歩の時代に突入してゆくような錯覚に陥る。
蝋燭の明りに輝らされながら、ペンを執り机に向っている幻影城の主の後姿が浮かび上ってくる。まるで夢のような出来事。
「日本の探偵小説の父」といってもいい乱歩の蔵書が、時代を経てそのままの状態で保存されていたなんて奇跡に近いことだ。
ところで、クイズ「乱歩からの挑戦状」は解けたかな? BDバッジは頂けましたか。
初日には乱歩のお孫さんにあたる平井憲太郎氏が見学に来ました。
なお、乱歩展は七月十四日、NHKラジオで実況放送された。
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