「それがどのような大事業であるかは、近日、諸君の耳にもたっするだろう。では、そのうちまたゆっくりお目にかかろう。」
の名調子。
小説の文章が生き生きと物語の世界を作り出す。
おなじみ江戸川乱歩の『怪人二十面相』の一節です。
イベントの三日目は、演劇倶楽部「座」による詠み芝居「怪人二十面相」。千代田区の小学五、六年生八十人を招いて行われました。
これは壇上に四人の役者(女性二人、男性二人)が上り、怪人二十面相をはじめとする多彩な登場人物と地語りを演じ分ける、いわゆる朗読劇です。暗くした室内、語り手に当たるスポットライト、時折響くエレクトーンの音色、子供たちは二十面相の世界へといざなわれていきます。
「詠み芝居」というのは、戯曲に書き替えをせず、小説をそのまま、セリフ部分と地の文に分けて、それぞれの役者が演じるもの。
「セリフ劇にしてしまうと、小説家の書いたよい文章が失われてしまう。そのよい文章をそのまま使って、芝居をしてみたい」
というのは主宰者の壤晴彦氏。
今回は、深い響きのある声で、怪人二十面相の怪盗たるすごみを聞かせてくれました。
この劇団の通常の詠み芝居は、舞台装置あり扮装あり振りつけありで、芝居の形態で演じられるので、今回のようにそれらがなく、言葉だけで表現するのは珍しいとのこと。それだけに難しさもあるのだそうです。
白熱の芝居に息を飲み聞き入る子供達。
詠み芝居が終わって、客席の照明がともると、まぶしそうに目を細め、それでも夢見心地の子供たち。
「言葉に迫力があった」
「難しいところもあったけど、お話はよくわかったよ。面白かった」
「強弱があってリアルだった」
「本が読みたくなった」
「テレビだとパッとわかってそれで終わり。これは難しいけど、続きが知りたくなった、読みたくなった」
と元気な反応が返ってきました。
このことを壤氏に話すと「そうですか、乱歩の持っている言葉のエネルギーを伝えたいと思っていたので…」とうれしそう。
「テレビはあまり難しい言葉を使いませんから、今の子供たちの価値観は格好いいとダサイしかない、言葉という面ではやせています。多彩な価値基準を育むには、多くの言葉にふれないと…。子供はこの本いいから読めといってもなかなか読みません。年代に合った面白いものに触れさせてやらないと…」とも。
本離れに歯止めをかけるためにも、子供たちにこういった楽しい体験をさせて小説の面白さを感じてもらうのは必要なのでしょう。
主催者側も「子供たちに本を読んでもらいたい。将来のお客さんになってもらわないとね」という気持ちでした。
古書会館に招くことで、地元の人たちに、我々の仕事を知ってもらいたいという思いもありました。
こういう企画が継続的にできて、子供たちに、本の魅力、言葉の力を伝えられたらいいねと、劇団の方々と、そこに居合わせた組合のスタッフとで盛り上がりました。
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