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「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」
第1回・Paradis(パラディ)-岩崎洋介さん(3)




皆さん、こんにちは。東京古書組合・広報課です。
「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」、
第1回は東京古書組合で広報部の理事もされております、
Paradis(パラディ)-岩崎洋介さんにお話しを伺っています。
今回はいよいよ最終回。
故郷の高知で実店舗を始めてから、紆余曲折の末、
いよいよ東京へ戻ってきた岩崎さん。
現在展開している様々なプロジェクト、また今後について、どっぷりと語って頂きました!



<沢山の企画とParadisのこれから>


 ―岩崎さんはフリーの頃のように、古本屋になっても色々なことを企画されていますけど、
最近開店した古楽房はどうですか?
「古楽房は高円寺なんだけど、そこを選んだのは”ちいさな古本博覧会”との兼ね合いがあ
るんです。ちいさな古本博覧会は去年の五月に立ち上げたんだけど、色々な催事をやって
みて、少しずつ停滞し始めているなって感じた。全く違う発想から催事を立ち上げる必要があ
るんじゃないかと。催事に来る人は固定してしまっていて、そういう人たちへ似たような商品を
出す、その繰り返しになっていて、それを続けていたら催事はダメになってしまうという意識が
あって。新しいお客さんを開拓すること、今まで来たことの無い人へどうアプローチしていくの
か、そして一回限りで終わらせるのではなくて、来てくれたお客さんを抱え込むために、それ
ぞれのお店やネット販売へどう呼び込んでいくのか――催事を自分たちがベースにしている
商売に結びつけていこう、そんな考え方で始めたんです。
そのためには自分が売りたい、本線にしている商品を出す、そしてそういうものがちゃんと売れ
るようにしたい。だから単なる即売展ではなくて、個々のお店がお客さんにプレゼンテーション
をする――万博がそれぞれ“自分の国はこんなに素晴らしいんです”ってアピールしているけ
ど、そういう場としての古書催事があっても良いんじゃないか、と」
 ―なるほど。
「まあ、でもそんなに優雅なことばっかり言っているのも難しいよね(笑)。利益が伴わないと参
加できないっていう現実も当然あるわけで。だけど基本的なコンセプトはそういうことなんです。
今度は四回目なんだけど、相当な組み立て直しをしなきゃいけない。
会場は高円寺の古書会館を使っていて、色々と都合が良いからなんだけど、本当は違う場所
に出なきゃ行けないなと思います。やっぱり古書会館だと新しいお客さんとしては相当なハード
ルになるんじゃないかなって」
 ―知らない人には抵抗感があるかもしれないですね。
「だけど会館だけに留まっていたら広がらないので、まず高円寺っていう町を起点にして、中央
線っていうラインも視野に入れつつ展開していくことができないかと考えています。それで、
古楽房を始めてみた」
 ―マーケターとして勝負に出ましたね。
「ただ古楽房は古本博覧会の事務局も兼ねるっていう意味合いがあって、純粋な古本屋として
発想したわけではないんだよね。五坪ぐらいの所を借りて、店先だけで売れれば良いと思って
いたんだけど、結果的に十坪くらいになった。それで全部事務局だけじゃ広いから中にも本を
置いたんだけど、固定的な売り場はつまらないので、毎月中身をまるごと変えてしまうとか、
実験的なこともやったりして」
―毎月変えているんですか?
「今のところはね。古楽房は最初に出した店と全く違う立地とコンセプトだから、面白いです。た
だ続けて行くにあたっては色々と考えなきゃいけないんだろうけど」
―西荻ブックマークにも関わっておられますよね。
「古本博覧会もそうだけど、元々がプランナーだからイベントを企画して形にするっていうの
が好きなんだよね。みんな色々考えるところまではやると思うんだけど、形にしてみないと面
白いかどうかは分からないし、思いついたら形にしないと意味ないんじゃないかっていうぐらい
に思っているから。でもそのお陰で色んな事が中途半端になってしまったりもするんだけど
……。まあ、それは性格的なものだから仕方ないかな。あとは資金面!こればっかりはどう
にもならない(笑)」
―お店もイベントも沢山のことをやられていますが、この先もずっと古本屋を続けたいと思って
いますか。
「うーん……。最近、“俺は古本屋なのかな”って思うときもあって……なんかあれこれとやっ
てしまっているから。さっき古楽房も実験みたいなものって言ったけど、そういう一つのものを
じっくりとやればいいんだけど、手を出しすぎていて、まずいかなあと正直なところ思っていま
す。好奇心と自分ができる部分と、うまく折り合いを付ける必要があるなと。今更遅いかもし
れないけどね」
 ―最後に、これからの展望を聞かせていただけますか。
「家業を継いで古本屋になったわけでもないし、何が何でも古本屋になるんだ!と思って始め
たわけでもない、ある種、自分の考えたことを形にするっていう作業をずっとやっていく中で古
本屋になった、それで今は古楽房や古本博覧会っていうのが出てきている。それをきちんと
形にする、手を付けてみたけどダメでしたっていう風にはならないようにしないといけないなと。
そういう意味では古本屋らしい古本屋じゃなくても良いのかなと思っています。他の人がやら
なかったことをやれば良いのかなって。
あと形にするということでは、売りたい本を売るっていう作業が一番できていないんです。浜
田山に店を出したときに最後までできなかった、自分がセレクションをした本をキチンと売っ
ていくこと、それを本当にやらなきゃいけないと思っています」
―あ、そうだ、Paradisっていう名前はどこから来ているんですか?
「天井桟敷の人々っていうフランス映画があって、その原題”Les enfants du Paradis”
から取りました。マルセル・カルネっていう監督の文句なしに素晴らしい映画で、僕は大好き
なんだけど、映画本を扱おうと思ったときにここから取ろうかなって。天井桟敷だと寺山修司
にいってしまうので原題から。英語では当然パラダイスだから、Paradis=本好きのための楽
園っていう理解でも良いかなと」
 ―それも素敵ですね。
「でも、パラダイスだと、なんかキャバクラとかパチンコ屋みたいだね(笑)」


(おしまい)


・聞き手-東京古書組合・広報課


次回の「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」をお楽しみに!