自著を語る」コーナー、今回は高橋徹氏に「月の輪書林それから」
(晶文社刊: http://www.shobunsha.co.jp/)
について語って頂きました。
高橋氏は大田区東矢口にある、古書目録による古書店「月の輪書林」
の店主です。7年前の「古本屋 月の輪書林」(晶文社)の続刊が
登場。明治・大正期の趣味人、三田平凡寺など、多くの忘れられた
人たちを再発見していきます。
■三田平凡寺を拝む■
お正月、川崎大師で、凶をひきあてました。想えば昨年も凶でし
た。今日は、凶でも狂でもなく、一目録屋の今日についてお話しさ
せていただきます。
私は目下、三田平凡寺(1876〜1960)という明治大正期
の趣味人を追いかけています。この男、一筋縄ではいかぬ、世でい
う奇人変人の一人。追いかけても追いかけても本性がいまだつかめ
ない謎の男です。
分からないから知りたい、恋の道とどこか似ておりますが、この
平凡寺なる男の旧蔵書を買ったのは、一昨年の秋の明治古典会での
こと、かれこれ一年半になりますか、ホント、日々の過ぎゆく早さ
は恐るべきものがありますね(ちなみに私、年男の四十八歳とあい
なりました)。
それはさて、熱に浮かされ買ったものの、平凡寺旧蔵生資料の迫
力といいますか、その得体の知れない不気味さに心底ビビったこと
を懐かしく思い出します。この資料を扱うのはホントに私でよかっ
たのでしょうか、と思わず手をあわせて拝んだものでした。桁違い
のものを目の当たりにすると人は謙虚になれるのですね。不思議な
体験でありました。
さて、前置きが長くなりましたが、ビビっていては埒が明かない
ので、次の日から市場で、平凡寺の“眼”になって蒐書に励み始め
ました。
本のジャンルでいうと、狂詩、狂歌、古川柳、郷土玩具、変態性
欲もの(エロ・グロ)。
人物では、まず平凡寺と同い年(明治九年生まれ)の人たち、野
口英世、石川三四郎、西川光二郎、相馬黒光、伊藤証信に注目しま
した。それから若き日の“情歌”仲間であった小山内薫、市川左団
次(二代目)、大石誠之助(ひいては大逆事件)。また師匠筋の人
たち、情歌の鶯亭金升、狂詩の真木痴嚢、狂歌の野崎左文、古川柳
研究家の飯島花月、絵を習ったという小林清親。そして本流の趣味
人のネットワーク“我楽他宗”にまつわる人々、淡島寒月、斎藤昌
三、宮武外骨、お礼博士のスタール、建築家のレーモンド、宗員の
文珠寺(松平康荘)、玩狐寺(有坂与太郎)、女弄寺(河村目呂二)
、竜駒寺(板愈良)等々。
こう書き写しているだけで、眼がクラクラするほど魅力的な登場
人物です。昨年は、ちょっと平凡寺の華麗?な交遊にふりまわされ
た感がいなめませんでした。ですから、今年は、平凡寺が生まれた
一八七六年を基点にして向こう側へ歩をすすめてみようと思ってい
ます。平凡寺はこちら側で八十五歳まで生きましたから、向こう側
へ逆上ると着地点は一七九二年(寛政四年)となります。
平凡寺は、突然変異でこの世に舞い下りた訳ではありませんから、
向こう側へ歩をすすめるとは、平凡寺の母胎をさぐる旅ということ
になるかと思います。
具体的には、一月三十一日から東京古典会へ本を買いに行こうと
思います。実は、誠心堂書店・橋口侯之介さんの近著『和本入門』
【平凡社刊】(目を開かれました)を昨夜読んで思いたったばかり
ですが。
平凡寺のような趣味人に、いっぱい出会えたらいいなと今は夢想
します。
■高橋徹 たかはしとおる■
1958年岡山県生まれ。日本大学芸術学部を2ヶ月で中退。
映画制作に関わり、87年に古本屋の店員になる。
3年半の修行の後、古本屋「月の輪書林」を開く。
著書に『古本屋 月の輪書林』がある。
■『月の輪書林それから』■
著者:高橋徹
発行:晶文社(http://www.shobunsha.co.jp/)
2005年10月発行
定価:2,310円(本体:2,200円)
ISBN:4-7949-6685-7C0095
判型:四六判
ページ数:315ページ
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