今回は番外編として、劇団昴公演『チャリング・クロス街84番地』
について、演出家の松本永実子さんに語って頂きました。
■古書と芝居と・・・■
この度、劇団昴では「チャリング・クロス街84番地」という
お芝居を、東京都古書籍商業協同組合の温かいバック・アップの
もと、上演する運びとなりました。
物語は、ロンドンの古書店の店員フランク・ドエルとニューヨー
クの売れない女流作家ヘレーン・ハンフの間に20年にわたって交
わされた、本の注文とその返事・・・という書簡を元にしています。
この、書物を愛する全ての人に捧げられたかのような物語、”日本
の古本屋”会員の皆さんの中にはご存じの方もいらっしゃるかも知
れませんね。
二人の古書に対するひたむきな愛が鎹となり、大西洋を越えて、
二人の人間が繋がりあうという、おとぎ話のような実話です。ロン
ドンの古書街チャリング・クロスの一画には、マークス&コーエン
社という古書店が70年代初頭までそこにはあったことを記念する
丸い銅プレートが大理石の壁に埋め込まれています。そこには、ヘ
レーンがフランクとの書簡集を出版したおかげで世界中にこの本の
ファンができ、この店が有名になった、という意味のことが彫って
あります。
先日、「市場」と呼ばれる古書のセリを見学させていただきまし
た。会場に入った途端、ほんとうは部外者禁制の重要な場なのだと
いうことがすぐに感じられました。皆さん和やかな表情ですが、場
の空気は相当に張り詰めています。売る側も買う側も、さりげなく、
しかし真剣な眼差しで、遠巻きにチラッチラッと商品である古書に
視線を送っておられます。
それは、どこかわたしども芝居の世界の人間のまなざしと似てい
るような気がしました。営業目的は厳然として存在する、しかし、
商品に対する限りない愛着と愛情が土台となっている・・・だから
きっと、時には利益を度外視してしまうこともあるのではないか・
・・芝居の現場に例えれば、舞台稽古開始直前、演出者とスタッフ
が観客のいない客席で、これから始まる舞台を期待と不安をもって
みつめる空気、とでも言いましょうか・・・?そこには、役者に対
する愛情や装置・照明・音響に対する想いが無言の内に漂っていま
す。どうぞ最大限の力を発揮してくれ、との祈りにも似た想いです。
神保町のように、古書店がこんなに多数軒を連ねる土地は、世界
中、東京だけだろうと思います。つまり東京は大変な文化財産を抱
えた大都市で、江戸っ子のわたしの最大の誇りです。学生時代から
大変お世話になったこの街に、この芝居を以って恩返しができたら
と思っております。ぜひ、ご来場下さい。
■松本永実子 まつもとえみこ■
日米の大学・大学院で英米文学・演技・演出・舞台芸術の実技から
演劇史・演劇理論に至るまで幅広く演劇を学ぶ。
昴での初仕事は『クリスマス・キャロル』初演(91)の翻訳。
米国から帰国後も劇団昴の演出通訳や演出補など務める。
また、『マーヴィンの部屋』(97)の翻訳・演出、『クリスマス・
キャロル』(99〜02)の翻訳・脚本・演出、『ジュリエットたち』
(04)はじめ座内勉強会など多数の舞台の演出を手がける。
劇団昴の俳優養成所でも教務主任として教鞭を取りながら、各地の
市民ワークショップや専門学校講師などを務め、演劇教育にも情熱
を燃やしている。最近はオムスク国立大学での講義など、日露の
演劇交流にも貢献している。
■劇団昴公演『チャリング・クロス街84番地』■
原作/ヘレーン・ハンフ
演出/松本永実子
出演/望木祐子、牛山茂 ほか
公演/3月30日(木)〜4月9日(日)
料金/一般4,900円→”日本の古本屋”会員の方は、
電話予約の際に「”日本の古本屋”の会員」と
おっしゃっていただくと4,400円に割引になります!
予約/昴チケットコール 03−3944−7071
場所/神保町から電車で10分!都営三田線千石駅近く(徒歩1分)
にある三百人劇場です。
詳細はホームページをご覧下さい。
(http://www.bekkoame.ne.jp/~darts)
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