「自著を語る」コーナー、今回は樽見博氏に「古本通 市場・探索
・蔵書の魅力」
(平凡社刊:http://www.heibonsha.co.jp/ )
について語って頂きました。
樽見氏は日本古書通信社に勤務する編集者です。古書業界誌のベテ
ラン編集者が語る、古書業界の仕組み、古本探索の楽しさ、蔵書処
分法まで、古本の魅力が満載の1冊です。
■古本は奥深く、あくまで楽しい■
この度、平凡社新書の一冊として「古本通ー市場・探索・蔵書の
魅力」(本体700円)を刊行させて頂きました。「古本通」とは
いささか面映いのですが、内容的には「古本との上手な付き合い方」
といったほうが適切かと思います。
「日本古書通信」の編集に携わるようになって、いつの間にか二
十六年が過ぎてしまいました。私は昭和二十九年生まれで現在五十
一歳、これまでの人生の半分以上を古本の世界で生きてきたことに
なります。東京の古書業界では、けやき書店の佐古田亮介さん、石
神井書林の内堀弘さん、朝日書林の荒川義雄さんなどがほぼ同年齢
です。彼らも二十代前半は神保町の古書店に勤めていたのですが、
みんな歳をとってきました。それにしてもあっというまの二十六年
でした。それほど古本の世界は奥深く、知れば知るほど面白い世界
です。何年この世界にいても毎日のように未知の古本に出会える、
それが古本の世界です。
私がこの業界に入った頃から比べると、古本屋を取り巻く状況は
大きく変化しました。一番大きな違いは、マスコミに取り上げられ
る頻度のような気がします。古本屋の認知度は上がったのです。か
つての暗い汚い胡散臭いといったイメージは無くなりました。しか
し、最近ショックを受けたことがあります。息子のアパートを探し
た時なのですが、不動産屋のお兄さんが、ある部屋を勧めるのに、
ここはTSUTAYAにもブックオフにも歩いて三分で行けます、
と言ったのです。若い人たちにとって古本屋はすでにブックオフに
象徴されるものになっているのでしょう。現にそのブックオフより
も近い所に、従来の街の古本屋が盛業しているのですから、そんな
ものだろうとは思いながらも衝撃でした。
年間の新刊点数が七万点を超える今日、書物一般の物質的な希少
性は無くなりました。書物はあふれています。加えてインターネッ
トの普及で知識情報の伝達は書物や雑誌に頼らないでも可能になり
ました。古本屋が歴史上もっとも活躍したのは、関東大震災と第二
次世界大戦後の復興期、つまり書物がなかなか得られない時代でし
た。今は古本屋にとって難しい時代です。そうした中で、新古本業
が、あふれる新刊書のリサイクルを主とする仕事であれば、従来の
古書業界の使命は千年を超える日本の書物の歴史の中で価値のある
ものを後世に残し伝えていくことにあります。簡単に言えば、本を
見る目をもったプロが、膨大な古本の海から価値あるものを見つけ
出し、必要な人に手渡して行くことです。しかもその価値あるとい
うことが一元的でなく多様化しているので、なおのこと難しいので
す。
私が今度の本で伝えたかったこと、広く一般の方に知って頂きた
いと思ったのは、我々古書業界が長年にわたって築いてきた古書市
場の優れた機能、つまり効率よく古書を流通させ、古書価の相場を
作り、またプロの古本屋を養成していく仕組みについてでした。マ
スコミはやはり表面の現象を追うだけで、そこまでは伝えてくれま
せん。また個性的な愛書家・蔵書家たちの生きざま、古本を集め物
事を調べていく楽しさについてでした。集めるだけでは古本の楽し
さは半分です。優れた収集家はまた優秀な考証家でもある場合が多
いのです。
私の師匠八木福次郎は昭和十二年以来「日本古書通信」の編集に
従事、今も現役ですが、自らを編集者とは言わずに本屋の主といっ
ています。私自身も主ではありませんが、やはり本屋だと思ってい
ます。この本も古本が大好きな本屋として書きました。担当の編集
者が大の古本好き、心強く書くことが出来ました。同好の方々が読
んでくださり、もっと古本を好きになって頂ければこれ以上の幸せ
はありません。
■樽見博 たるみひろし■
昭和29年茨城県生まれ。
法政大学法学部卒業。
昭和54年日本古書通信社入社。以後「日本古書通信」の編集、
「全国古本屋地図」の編纂などに従事。
平成16年1月、私家版「古本ずき」を刊行。
■『古本通 市場・探索・蔵書の魅力』■
著者:樽見 博
発行:平凡社(http://www.heibonsha.co.jp/)
2006年4月発行
定価:735円(本体:700円)
ISBN:4−582−85318−8
判型:新書判
ページ数:208ページ
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