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「自著を語る」コーナー、今回は向井透史氏に「早稲田古本屋日録」
(右文書院( http://www.yubun-shoin.co.jp/ )
について語って頂きました。
■物語のある店番■
今年の2月に、『早稲田古本屋日録』という本を出しました。自
分の店である「古書現世」の帳場から見てきた、印象に残る出来事
やお客様たち、そして文字通り日々の日記を書きとめたものです。
これらは、自分の店の古書目録の裏面に書いてきたものなのですが、
思えば10年以上も書き続けてきたことになります。
父親が開いた店を手伝うようになって、約15年となりました。
15年。短くない年月です。で、私の現在の年齢はいくつかと言え
ば、33歳。古本屋を継ぐ決意をしたのが高校を卒業してすぐ。ま
だ18歳でした。上記の古書目録を作り始めたのが19歳のころ。
文章を書き始めたのも、それが最初でした。当時は古書目録の最盛
期とも言えるころで、ある常連さんに「古本屋の日常でも書いて特
徴を出せ。じゃなきゃ生き残れない」なんて脅されて(笑)、言わ
れるがまま。目録製作の少し前に出あった、雪の日の焼き芋屋さん
との一コマを書いたのが最初となりました。ある大雪の降る日。遅
くまで仕事をしていた時に、「誰もでてきやしねぇ」と店に焼き芋
を押し売りに入ってきたおじさんとのやりとりを書いたものです。
この作品は、この本の一番最初に「大雪の夜」として収録していま
す。
読み返してみると、恥ずかしいこともたくさんありました。「睡
魔」という作品では、お客様のご自宅に買い物にいきながら、つい
居眠りをしてしまったり(しかも起きたらタオルケットが身体に・
・・)、あまりに「うちは貧乏なので」というので、同じ貧乏同士
かと思って気軽にご自宅を訪れたら豪邸だったり(「貧乏談義」)。
そんな中、印象に残っているのが「書物の記憶」という一篇です。
早稲田大学の在学中に集めた古本を、一度実家である福島へ戻って
も、再度東京へ戻ってきても持ち続けていた方が、父親の病気で再
度実家に戻らなければならなくなった方の蔵書を買う話。もう東京
には戻れない、という決意で、本を処分されたのです。私はその時、
この方の早稲田での記憶そのものを買うという気分になったのでし
た。こんな、出来事たちが、第一部の「日々の帳場から」に収めら
れています。
第二部はまさしく日記です。毎年10月に開催される早稲田最大
のイベント「早稲田青空古本祭」へと向かう、6月から古本祭最終
日までの日記になっています。業界全体からみれば、ただひとつの
古本市ですが、地域最大のイベントへ古本屋がどんな気持ちで向か
っているのか、書いてみました。
この本には古本の薀蓄や、稀覯本の話は出てきません。むしろ
「古本」についてではなく「人」について書いたつもりです。まず
は人ありき。これからも、古本を通じてお客さんと物語を作れるよ
うな、そんな店番を続けていきたいと思います。
この本をまとめていて、やっぱり自分はこう思っていたのだな、
と思ったことがあります。その一言は、本編(第二部の日記)の一
番最後の行に、そっと添えました。手にとってご覧いただけました
ら幸いです。
■向井透史 むかいとうし■
1972年早稲田生まれ。早稲田の古書店、「古書現世」二代目。
月刊「WiLL」( http://web-will.jp/ )にて〈早稲田古本
劇場〉を連載中。
2006年秋には、未來社のPR誌「未来」
( http://www.miraisha.co.jp/mirai/mirai.html )
で連載していた早稲田の古書店主たちの開店するまでの
エピソードの聞き書きを大幅加筆して同社より刊行予定。
ブログ「古書現世店番日記」( http://d.hatena.ne.jp/sedoro/ )
■『早稲田古本屋日録』■
著者:向井透史
発行:右文書院( http://www.yubun-shoin.co.jp/ )
2006年2月発行
定価:1,575円(本体:1,500円)
ISBN:4−8421−0066−4
判型:四六判
ページ数:199ページ
☆次回のメルマガ『自著を語る』は、古書窟揚羽堂・志賀浩二さん
の「古本屋残酷物語」(B6判 232頁 2,100円 発行:
平安工房 http://www.heian-koubou.biz/ 発売中 )です。
ご期待下さい!