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「自著を語る」コーナー、今回は向井透史氏に『早稲田古本屋街』
(未來社 http://www.miraisha.co.jp/ )について語って頂きました。
■古本屋のある「街」の履歴書■
早稲田大学から高田馬場駅へ向かう早稲田通り沿いに約30軒の
古本屋が立ち並ぶ早稲田古本屋街。戦前からいるような顔をして並
んでいるのだが、実は昭和40年代になって急激に増えていった店
が多い。もちろん戦前にも古本屋街はあったのだが、それは大学正
門から神楽坂方面へと向かう道に並んでいた。大学と共に栄え、昭
和20年の空襲によって灰となって消えてしまった。戦災を受けず
残った早稲田の地。それが現在の早稲田古本屋街のあるエリアなの
だ。その場所に、神保町などで修業したものたちが、少しずつ店を
開いていく。その経緯を早稲田の古書現世二代目店主である自分が
聞き書きしたのが本書『早稲田古本屋街』である。先ほど書いた戦
前早稲田についても序章「昭和20年、早稲田古本屋街消滅」にて
記述した。
この本の元となったのは、未來社のPR誌「未来」に連載をして
いた原稿である。連載をはじめるにあたって、あることを思い出し、
それを書きたいと思った。
ある古本市が終わった帰り、早稲田の古本屋店主数人と居酒屋へ
行った。古本屋の飲み屋話なんて売れた売れないだとかそんな話ば
っかりなのだが、この時はなぜかある店主の昔話になった。
「未来」連載の第一回目になった岸書店さんである。「俺なんて新
潟から就職するってことだけで連れてこられてさぁ、もう一人の子
と一緒に。で、上野駅ついてから突然『質屋と古本屋がある。好き
なほうを選べ』なんて言われてさぁ。古本屋ってよくわからかった
んだけどなんとなく選んで店員になっちゃってなぁ」
後日、違う飲み屋でも同じように古本屋になる時期の話を聞いた。
五十嵐書店さんである。「後楽園そばの職安でようやく仕事みつけ
てね。興奮したまま駅にむかったら道に迷ったんだ。逆に行ってた
の。そしたら神保町の古本街に出てね、偶然。そこに店員募集の貼
り紙があったんだ、もっと条件が良かった住み込みのがね。あの時、
道に迷ってなかったらどうなっていたか」
現在、古本屋になりたいという若者も多いという。実際、店頭で
開店方法を訊かれることも多い。皆、店舗内装や取り扱い商品など
も明確なビジョンがある人ばかりだ。しかし自分は、そのような動
機とは違う、地方の、長男ではない人間たちが職を求め東京へ出て
「なるしかなかった」というような道を歩み古本屋へなっていく人
生に興味を持ったのだ。また、この業界の複雑な親戚関係も面白か
った。東京で古本屋を営む親戚筋を頼って上京する人物も多かった
のだ。その関係性も、実に興味深いものだった。
本を書くにあたって気を遣ったのは「ただの業界史」にならない
ように、ということであった。古本屋のことはよく知らないけど、
とか、早稲田には行ったことないし、など、そういう人でも最後ま
で読めるようなものにしたかった。まったく違う人生が集まってき
て、ひとつの街ができあがる。「人」が作る小さな「街」の物語。
古本の本にありがちな、稀覯本の話なんて関係がない世界。ある時
は飲み屋で、自宅で、店で取材を続けて今、ようやく本になった。
なんとなく店を継いで、ただ仕事を続けてきた二代目店主である自
分も、聞いてきた街の歴史に続く現在に立っているのだと思うと、
少し誇らしく感じるようになった。
最後に。この本は「街」の歴史であると共に、本が驚くように売
れて輝いていた時代の話でもある。一日に数回仕入れに行き、帰っ
てくるたびに本が棚で倒れるぐらいに売れている時代。学生が本を
欲しいがためにバイトをしていた時代。今とは逆で「売るのは簡単、
仕入れは困難」という時代だったのだ。その輝きを「古本好き」の
方だけではなく、たくさんの「本好き」の方に読んで欲しいと思う。
■向井透史(むかいとうし)■
昭和47(1972)年、早稲田生まれ。
堀越学園高校を卒業後、早稲田の古本屋「古書現世」二代目となる。
雑誌「本の雑誌」(本の雑誌社)、「WiLL」(ワック)にて連
載中。著書に『早稲田古本屋日録』(右文書院)がある。
向井さんブログ→ http://d.hatena.ne.jp/sedoro/
■『早稲田古本屋街』■
著者:向井透史
発行:未來社( http://www.miraisha.co.jp/ )
2006年10月発行
定価:1,890円(本体:1,800円)
ISBN:4−624−40059−3
判型:四六判
頁数:254ページ
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『幻影城の時代』刊行!!
本多正一
雑誌『幻影城』は1975年から79年まで刊行されていた探偵
小説専門誌である。
書誌学者として『三島由紀夫書誌』(薔薇十字社、1971年)
の労作のある島崎博氏が、膨大な蔵書と人脈を駆使して創刊したミ
ステリーの専門誌だが、四年半という短い活動期間ながら、泡坂妻
夫、栗本薫、竹本健治、田中文雄、田中芳樹、友成純一、夏来健次、
連城三紀彦らの新人を世に送り、またファンクラブ「怪の会」から
は縄田一男、長谷部史親、細谷正充、宮部みゆき、村上裕徳、山前
譲、横井司、よしだまさしといった才能を輩出した、忘れられない
名雑誌だった。
『幻影城』が休刊して27年、母国台湾へ戻られた島崎博氏を取
材した貴重なロングインタビューを巻頭に、権田萬治氏ら関係者へ
のインタビュー、泡坂、竹本、連城、栗本氏ら出身作家の回想、綾
辻行人、有栖川有栖、宮部みゆきら、現代ミステリー界の面々のオ
マージュ、その他論考、資料を合わせ収め、『幻影城の時代』を昨
年末に刊行した。
続きはこちら→
http://www.kosho.ne.jp/melma/magazine20070119_2.htm
*『幻影城の時代』取扱い書店は以下のホームページを参照してく
ださい。
http://members.at.infoseek.co.jp/tanteisakka/
*お問い合わせ先は、「エディション・プヒプヒ/垂野創一郎」
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kamano@qb3.so-net.ne.jp>まで
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