雑誌『幻影城』は1975年から79年まで刊行されていた探偵
小説専門誌である。
書誌学者として『三島由紀夫書誌』(薔薇十字社、1971年)
の労作のある島崎博氏が、膨大な蔵書と人脈を駆使して創刊したミ
ステリーの専門誌だが、四年半という短い活動期間ながら、泡坂妻
夫、栗本薫、竹本健治、田中文雄、田中芳樹、友成純一、夏来健次、
連城三紀彦らの新人を世に送り、またファンクラブ「怪の会」から
は縄田一男、長谷部史親、細谷正充、宮部みゆき、村上裕徳、山前
譲、横井司、よしだまさしといった才能を輩出した、忘れられない
名雑誌だった。
『幻影城』が休刊して27年、母国台湾へ戻られた島崎博氏を取
材した貴重なロングインタビューを巻頭に、権田萬治氏ら関係者へ
のインタビュー、泡坂、竹本、連城、栗本氏ら出身作家の回想、綾
辻行人、有栖川有栖、宮部みゆきら、現代ミステリー界の面々のオ
マージュ、その他論考、資料を合わせ収め、『幻影城の時代』を昨
年末に刊行した。
当時、『幻影城』を飾った渡辺東、山野辺進の作品を池田拓がレ
イアウト、往年の『幻影城』が復刊されたかのような凝った装幀と
なっている(オモテ・ウラ両方から開くことができる)。参加人数
は96名、全員が無償での参加である。いわば執筆関係者96人全
員が制作スタッフという同人誌なのだ。
これまで『幻影城』を回顧する企画は山前譲編『甦る幻影城』全
三巻(角川書店)以外になかったためか、刊行後10日で版元在庫
が払底し、2007年1月15日現在、伝手のあった新刊書店、古
書店の店頭在庫のみの状態となっている。それなり自信のある出版
物だったが、あまりの反響に編集スタッフ全員驚いている。島崎氏
と『幻影城』の志はいまも脈々と日本の多くの読者に受け継がれて
いるのである。
先日、この本を手にした台湾の島崎博氏から親友権田萬治氏のも
とに喜びの電話が届いたという。入手困難な状態だが、ぜひ『幻影
城の時代』をお手にとって、ノスタルジーに還元され得ないその熱
さを体感して欲しい。また、来る5月27日(日)には東京古書会
館のアンダーグラウンド・ブックカフェで権田萬治氏によるトーク
ショー「幻影城の時代」も開催する予定である。こちらにも是非お
運びいただきたい。
*『幻影城の時代』取扱い書店は以下のホームページを参照してく
ださい。
http://members.at.infoseek.co.jp/tanteisakka/
*お問い合わせ先は、「エディション・プヒプヒ/垂野創一郎」
< kamano@qb3.so-net.ne.jp>まで
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