━━━━━━━━━━【自著を語る(53)】━━━━━━━━━━━
『再販/グーグル問題と流対協』(論創社)
高須次郎
私が会長を務める出版流通対策協議会(流対協)は、中小零細出
版社97社で組織する出版業界団体である。1997年に公正取引委員会
が本の定価販売制度=再販売価格維持契約制度(再販制度)の見直
し発言を機に再販制度の擁護を掲げて発足した。大手取次店による
中小零細出版社に対する差別的取引の撤廃や言論出版の自由の課題
を加え、この3つの課題を中心に活動を続けてきた。
発足以来33年以上が経つのに、その時々の業界紙誌での論文はあ
るもののまとまった本がなく、大手出版社の団体である日本書籍出
版協会(書協)とは立場を異にすることも多く、その辺も含め説明
をする必要があるとも考えていた。そんな矢先、論創社の森下さん
から「出版人シリーズ」の企画の話があって、良い機会と思ってこ
の本になった。インタビューアーの小田光雄さんは私の好きな著名
な出版評論家で、再販制度については全く見解を異にする点が、む
しろ刺激的でもあった。
この本のポイントは、つぎの諸点にある。まず昔は本には奥付に
定価が記されていたが、なぜいつの間になくなってしまったのか、
また新刊書籍などはなぜ定価販売でなければならないのかを分かり
やすく説明した。また本の定価表示が外税表示になっているのは、
内税表示を推進した書協に対し、流対協が外税表示を主張、公取委
を訴えた消費税定価訴訟と消費税の値上げで流対協の主張通りの外
税表示となった顛末も明らかにした。
再販制についてはコンパクトに歴史を辿った。オイルショックの
インフレで、出版社がシール張りによる定価の値上げや奥付定価を
止めたりしたため、公取委が定価販売の特権を濫用し消費者利益に
反すると批判し、これに対し流対協の結成などを含め出版界の再販
擁護の運動がおき、現行再販制度が成立するまでを第T部で取り上
げた。皮肉にも消費税の導入により、奥付定価が事実上なくなって
しまった経緯なども明らかにした。
その後、日米経済摩擦により、米国が再販制の廃止を要求、医薬
品などの指定再販制度が廃止されるだけでなく、著作物法定再販制
そのものの期限を区切っての廃止の要求がなされたため、新聞、出
版などの業界による再販制擁護運動が展開される。なんとか3年間
のモラトリアムになったが、その間に出版界では書協などが再販制
度を守るためとしてバーゲンブックなどの弾力運用を展開、内部か
ら崩れ始めるが、流対協は再販制度の擁護の姿勢を崩さなかった
(第U部)。
出版界では流対協そして新聞業界の再販制擁護の意思が堅く、20
01年に同制度の当面存置が決まるが、逆に再販制度の擁護の名目で
弾力運用が行われる。昨年になって、流対協の申入れに対し公取委
は再販制の見直しは行わないことを表明し、ようやく一件落着とな
る(第V部)。
グーグル問題についても書協は参加が得策としたが、流対協は出
版社の自殺行為としてこれに反対、グーグルに勝利するまでの顛末
が明らかにされる(第W部)。
小さな出版社団体が、さまざまな出版流通問題で決定的かつ重要
な役割を果たしていたことが分かっていただければと思う。
高須次郎(緑風出版代表)
『再販制/グーグル問題と流対協』論創社刊
http://www.ronso.co.jp
緑風出版
http://www.ryokufu.com/top.html
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