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「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」
第1回・Paradis(パラディ)-岩崎洋介さん(1)



さて、今月より始まりました「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」。
タイトルをご覧頂ければ、一目瞭然、古書店の方々に、
どのようにして「東京の古本屋」となったのかをお聞きするコーナーです。
業態も扱う本も内装もお店に持たせる機能も千差万別であるように、
開業へと至る道のりも、またそれぞれであることと思います。
初回は、現在、東京古書組合で広報部理事も務めるParadisの岩崎洋介さんに、
お話しを伺いました。


<広告業界→八百屋(!?)→古本屋>


「……そもそも今回は、どんな趣旨だったんだっけ?」
 ―どうして古本屋さんになったのかをお聞きする、というような感じですかね。
「ま、雑談みたいな感じで良いよね」
 ―構わないです(笑)。
えっと、岩崎さんは東京組合に加盟されて何年目なんですか?
「今度の五月でちょうど四年になります。ただ高知組合に加盟した時期があって、その時はパラディではなかったんですけどね」 
 ―古本屋以前はどのようなことをやっていたんですか?
「大学を出てから広告業界に入って、色んなプロダクションや代理店を経巡りつつ、マーケティングプランナーとして独立したのが、社会に出て十年目ぐらい。
 それからまた十年ぐらいはフリーを続けていました。実際は雑誌の編集とかビデオ作成の手伝いとか、色んなことに首を突っ込んでいたんだけどね」
 ―あの、フリーって儲かるんですか?
「安定的ではなかったんだけど固定の仕事があったから、とりあえず食う程度には困らなかった。独立したての頃はバブル絶頂期で、最初の三年はウハウハだったなあ」
 ―でもすぐに終わってしまった(笑)。
「そう(笑)。それでも、とりあえず十年はやってみた。
 それで年齢的に一つのターニングポイントを迎える頃になって、このまま続けるかどうかを考えてみたんです。フリーは気楽なんだけど、一生の仕事かなと思うと疑問もあるし、やっぱり不安定感は常にある。それに長男だから田舎からは帰ってこいっていつも言われていて。それで、ひとまず高知に戻って現状をリセットしてみるのも良いかなと思って。家族は東京に残して、一人で帰ったんです」
 ―戻ってからどうするか、具体的なことは考えていたんですか?
「全然(笑)。本当にリセットするっていうイメージだったから。
 でも帰った頃はちょうど、母親が長いこと勤めていた農協を定年退職になって、自分で総菜屋を始めようとしていたんだけど、知り合いに青果の組合に入っている人がいて、紹介してやるから市場へ行って材料を仕入れてこい、ついでに野菜も売れって言われて、あっという間に八百屋になってしまった(笑)。だから総菜屋と一緒になった八百屋だったんですよね」
 ―八百屋ですか!
「そう(笑)。」
 ―岩崎さんは乗り気だったんですか?
「いや……リセットしようっていうのは、ある意味楽したいっていう気持ちもあるから、そんなにモチベーションが上がったわけでもなくて。
何しろ朝早いのがしんどかったし、仕事も市場で仕入れて並べるだけの単純作業で面白くなかった。お客さんもお昼に総菜屋のついでと夕方には来るんだけど、それ以外の時間帯は店番をしていてもほとんど人が来なかった。それで暇な時間帯は父親に店番を変わってもらって、休憩時間にしていたんだけど、その時に楽天フリマとかEasy Seekを知ったんです。最初は本を買うためのサイトとして眺めていたんだけど、出品している人のサイトを見たりしているうちに、俺でも売れるんじゃないかと思って。大学の時から集めていた本が何千冊とあったし、読まないものが多かったから、整理しようという気持ちもあって出品してみた。そうしたら大した点数を出しているわけでもないのに、わーっと売れてしまった。こんなに簡単に売れるんだと思って。みんな最初はそうなんだろうけどね」
 ―それは八百屋さんを初めてどれくらい経ってからですか。
「三年目ぐらいかな」
 ―結構やってたんですね。てっきり一ヶ月くらいで飽きてしまったのかと(笑)。
「まあ、それなりには頑張ってはいたんだけど……。
 で、そうやってネット上で本を売っていたんだけど、半年ぐらい経つと出す物が無くなってきた。取っておきたい本もあるし。ちょうどその頃に“古本屋になるには”みたいなことを纏めていたサイトと出会ったのかな。それを見て簡単に古本屋になれるんだなと思って。それから自分で情報を集めていくうちに、本が大量に売買されている市場という場所にとても魅力を感じた。そこには自分の欲しい本が沢山あるのかもしれない、そういう現場に足を踏み入れてみたい、そんな気持ちが古本屋になった一番の動機かも知れないです。商売云々っていうよりはね。それで高知の組合に加入をしました」
 ―八百屋をやりつつ、ですか。
「そうです。それで組合に入っていれば全国の市場を利用できるということを知ったので、年に二、三回、家族の所へ帰るついでに東京の市場で仕入を始めたんです。一ヶ月ぐらい滞在している間に。本は車で高知まで運んで」
 ―車ですか! 大変じゃないですか。
「僕はそんなに負担ではないんだけど、まあ半日はかかるね(笑)。
で、そうしていくうちに本はどんどん増えていくんだけど、だんだん部屋中にあふれ出してくる。僕は寝る場所に自分の身近な物を全部置くタイプだから、仕事もベッドのあるところでやっているんだけど、いつでもあふれ出た本に囲まれていると圧迫感も生まれてしまって。もともと本が好きで始めたはずなのに……。これは何とかしなきゃいけないと思って、もう八百屋は辞めて実店舗を持ってしまえ!と。それからあっという間に高知で店を持ってしまった(笑)」
 ―思い切りが良いですね(笑)。
「プライベートと仕事を切り離さなきゃいけないな、と思ってね」


(次回へ続く)



・聞き手―東京古書組合・広報課