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「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」
第1回・Paradis(パラディ)-岩崎洋介さん(2)




さて、皆さんお待ちかねの「余は如何にして東京の古本屋となりし乎」。
第1回は東京古書組合で広報部の理事もされております、
Paradis(パラディ)-岩崎洋介さんにお話しを伺っています。
前回では広告業界で活躍された後、故郷の高知へ帰省、
なんと八百屋さん開業されていたという衝撃(?)の過去が明らかになりました。
その後、岩崎さんは八百屋さんの傍らネットで本を売ることになるのですが、
本に埋もれてしまう生活に限界を感じて、いよいよ店舗を持つことに……。


<高知から東京へ-古本屋としての勝負>


 ―高知のお店はどうだったんですか?
「郊外だったから人が沢山来るわけではないし、それこそ道の並びにはブックオフがあった
 りするようなところだったからね。だから倉庫兼店舗みたいなもので、商売のメインはネット
 だったね」
 ―その頃は高知と東京の往復っていう、かなり労力をかけてやられていたわけですけど、
 それに見合うような収益だったんですか。
「そんなに儲かってはいなかったけど、どうなんだろう、記憶がないなあ。
 ただはっきりと東京に出ようと決めたのは、やっぱり店に全然人が来なかったからで、いく
 ら倉庫兼とは言っても、見てもらいたい本を並べているわけです。だけど店としての機能が
 全然働かない。もっと色んなお客さんに来て欲しいと思ったとき、この先、古本屋としてしっ
 かり勝負するなら、東京に出るしかないなと」
 ―それで東京組合に加盟された、と。
「そう。それで浜田山でパラディを始めたんだけど……」
 ―現在は、もう店舗はないわけですよね。
「まあ、場所選びが悪かったよね。結果的には。
 でもどうして浜田山なんていう古本屋に向いていないような立地を選んだかっていうと、大量
 に売るための店っていう発想じゃないからね。映画、演劇、芸能、美術っていうジャンルを作
 って、そういうのを求める人だけ来れば良いと考えていたから、わざわざ不特定多数を相手
 にする必要はないって思っていて……商品さえ充実していれば立地は関係ないんじゃない
 かと、マーケッターとしての分析ではね。見事に外れたけど(笑)」
 ―その道のプロなのに(笑)。
「でも中途半端に終わってしまったからね。とことんやれば成立したのかも知れない。理論と
 実践っていうのは商売の難しいところで、品物の充実度という点なら、“そこへいかないと手
 に入らない”ぐらいまで持っていけなければ、わざわざその店に行く必要はない。それは分か
 っているんだけど資本的な部分で難しかったし、店を持つということはコストが発生するわけ
 で。ネットである程度売上があるから、店は家賃分さえ稼いでくれれば良いって思ったんだけ
 ど、それすら足りない。そうなると自分が動かなければいけなくなって、店を開けられない時
 間が増えてしまう、すると結局お客さんは定着しない。しまいには開いていないことの方が多
 くなってしまったりして……。倉庫にするなら高すぎるなと思って閉めてしまった。イメージや
 構想はあるんだけど、現実的には色々なほころびがあって、とても実現できなかったんだ
 よね」
 ―いきなり古本屋を始めてしまった、ということで言えば、いわゆる「修業」はしてないわけで
 すが、本に関する知識というような部分に関してはどこで養われたんですか。
「田舎に帰る何年か前から古本屋巡りが好きになって、沢山の色んな本を見て回ったから、
 知ってるつもりだったんだよね。だけど市場へ行ってみたら自分の知識なんて芥子粒みた
 いなものだった。知らない本が山のようにあって本当に驚きました。
 でも気になる本は何でも入札してみようと思うタイプだったから、大失敗もするけど段々と
 感覚も身についてくるし、市場は情報交換の場でもあるから色んな人が教えてくれたりもす
 るしね。未だにまだまだだなと思うけど、本当に市場は楽しいね!」
 ―やっぱり、本が好きっていう前提があるんですね。
「家業を継いでいる人は分からないけど、僕みたいにいきなり始めてしまう人は本が好きじゃな
 いとできないですよね。なんで八百屋を辞めたかというと、やっぱり野菜を愛せなかったから
 で、売れる喜びはあるけど野菜と付き合うことの面白さは生まれなかった。青果市場へ行くと
 本当に“野菜大好き”っていう人ばかりなんだけど、僕はそういう風にはなれなかった。
 でも古書の市場では知らない本ばっかりでも逆にファイトが湧くくらい面白い。だから色んな
 意味で大変ではあるけど、続けられるんだと思います」
 ―先ほど、実店舗では映画、演劇、芸能、美術っていうジャンルを作ったと言われていました
 けど、現在はどんな本を扱っているんですか?
「分野っていうことで言えば、数多ある古本屋の中でもかなりいい加減じゃないかな(笑)。
 それは東京に来てすぐ催事をやり始めたことが大きいんじゃないか――どうも催事は自分の
 体質に合っている、面白いなと思うんですよね。
 それはさっきの専門店っていう考え方と相反するんだけど、要は物が現場でダイナミックに
 動いていく面白さと自分が眼をかけた本を売る機会と、両方欲しいんですよね。前者はやっ
 ぱり催事とネットで、それはこだわりの場所ではなく、あくまで商売のための場所なんです
 よね」



(次回へ続く)




・聞き手―東京古書組合・広報課