明るい話題を寄せて欲しいとのことで、そうは云われても昨今書き易いテーマではないのだが、二〇〇〇年以降の営業を振り返って何がしかを書いてみようと思う。
小店の場合は取り扱った目ぼしい品や仕入れの記録は概ね自家目録に見て取れる。インターネットの普及で販売の様態はこの数年大きく変わったが、古本屋としての云わば肝の部分では紙の目録優先主義者である。最近は「紙の目録」略して「カミモク」と呼ぶそうだ。
小店のカミモクは殆どが「北方関係を中心とした…」と冠題がついたローカル性の強い目録だが、最近になって、長年この路線で蒐書を積み重ねてきた事を本当に良かったと感じている。単に地の利といった話ではない。ローカル性は実際には其の中に多種多様の分野を含んでいて、この事は特に掘下げた部分の古書資料を求められている本誌読者には、よくご存知の事と思う。
地方の古本屋にとっては、中央の古書店とは一味違った品揃えの豊富さを持てるし、古書市場の変化にも順応し易いところがある。
さて、そんな小店のカミモクの中では、二〇〇四年に出した「樺太文献特輯」が近年最も充実した内容であったと思う。そもそも特輯目録は、通常の在庫目録に較べてボリュームは薄くともインパクトが強く、販売効率も格段に良い。但し、作成の為にはどうしても核となる仕入れが必要で、その点でもこの目録は幸運だった。
一括で譲り受けたコレクションの持主は父が開店した当初からのお客さんであり、私にとっては古本屋の喜びを教えてくれた人と言おうか、「こんな本、良く見つけて来たなぁ」などと褒めて貰い、励まされた懐かしい方である。恐らく亡くなられる間際まで、本誌目録欄は欠かさずご覧になっていたと思う。
よくまとまったコレクションであり、施政資料、産業史、自然史、民族関係ほか写真帖・絵葉書に至るまで、今後これだけ蒐める事は至難だろう。
特筆すべきものとして、目賀田守蔭「樺太図」全五枚をあげておきたい。作成者は谷文晁の門人で、幕命で北方の地理調査を行い、極めて美麗な「延敍(エゾ)歴検真図」なる風景画集を献上している。この調査を元に作成された樺太全島図らしく、恐らくは新出図である。
さてこれらの樺太資料もそうであったのだが、様々な研究家・蒐集家が存在して、各々の全体的な研究・蒐集の為にローカルな資料が求められる。一方こちらはローカルなものを通して全体を見ようとしている古本屋と云えるかもしれない。
北方関係資料にも、新たに産まれてくる部分が無くてはならないし、その手がかりは外側から、全体的な研究の成果、市場の動向から得られることが多いのである。また、北海道は歴史的にも特に人の出入りの激しい土地柄で、日本中の何処にどんな伏流が潜んでいるとも限らない。本誌読者の皆様のご教示を乞う次第である。
全体性とローカル性の間を行ったり来たりしながら、少しでも自分の仕事を深めていきたい。
明るい話題かどうかわからないが、ある地方の古本屋は現在こんなモチベーションの上に日々の仕事をしているといった話である。
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