二枚目だった頃のエノケンを使った百貨店のポスターが店の天井に貼ってある。「道楽者で、しっかり者」のコピーも良い。そのポスターを見上げて、当店の相棒は、「せめて、こうなってくれたら…。うちは〈道楽者で、うっかり者〉」とつぶやいた。その通りです。返す言葉もありません。
いつもやりたいことがあり、頑張っている気がするのだが、古本屋としてではない。
毎年、神輿を担ぐのも仕事ではない。だが仲間の一人が中国に絵画留学した事を古本市で初めて知った。水墨画の画集を買ってくれたのだ。毎年、隣町の映画祭に通い詰めるのは店にとってマイナスなのだが開場を待つ行列でいつも顔を合わせる人と親しくなった。今では郷土、芸能などの資料を探しに来てくれる。「前橋宴会」という日本酒の会、これは本当に道楽だが顔馴染みから実家の蔵書整理を頼まれたりする。(シングルモルトを飲む会もあります)
俳人になったのも仕事とは関係ないが、金子兜太の門下生同士だからと本を探しに来る人もいる。さらに店のお客さんが当店を編集部とする俳句誌の同人や購読者にもなってくれた。友人の画廊で一年ほど前から始まった俳句講座では「いい俳句を作りたければ本を読め!目玉を磨け!」と店の棚のオススメ本を紹介兼販売している。
朝日新聞の群馬県版で「郷土ゆかりの本」という書評欄を書き、さらに俳壇の選者を始めたら、古本だけでなく、新刊書店で「猫的俳句本」という棚を持たされた。ちなみに、その店では『女子の古本屋』(岡崎武志 筑摩書房)が「山猫館書房、掲載!」とポップ付きで平積みされ、それを見た友人から「お前、女子だったのか!」と電話が来た。
高校時代の恩師がやっているルソーやウェーバーを一行ずつ何年も掛けて読む人文書の読書会も仕事とはいえない。だが古本屋にとって自分が浅学非才だと思い知ることは悪いことではないはずだ。知ったつもりの方がコワイ。で、居酒屋通いも無論、仕事ではない。とはいえ大晦日の古本市搬入を十年以上、手伝ってくれたのは、その店の仲間だ。「清河への道」で知られる新井英一のライブを群馬で開催出来るのも、その店のおかげといえる。
こんなふうに遊んでいるのだから、売上はキビシイ。先日、電話が止められた時は友人が驚き、ジャガイモと炊き込みご飯を抱えて飛んで来た。
どうやら頑張っているのは山猫館書房ではなく周囲の人たちなのである。
あっ、苦手だけど少し頑張ったことが一つだけある。初めて行政と組んだ「上州・大古本まつり」だ。組合員が力を合わせ、周囲の協力を得て、今年の春、群馬県庁県民ホールを会場に主催・群馬県古書籍商組合、後援・群馬教育委員会で開催した。参加店の多さや城跡の松が見える明るい会場などが好評で全国紙の県版や地元の新聞、テレビでも紹介された。何より多くの来場者が嬉しかったです!
|