- 小沼
- 本日はお忙しいところお時間をいただきまして、誠にありがとうございます。さっそくですが、新田会長といえば、古書業界のみならず最近では丸善ＣＨＩホールディングスの参加企業の一つとして日々精力的に活躍しておられます。新田会長は失礼ですが年齢が私より十才ほど上でいらっしゃるにも関わらず、この業界を牽引しているようにもお見受けします。そのバイタリティにはただただ敬服するばかりです。同じ業界の者として、新田会長の様な方が前を歩まれているのは大変心強いです。と、いいますのも、我々を取り巻く環境は厳しさを増しています。電子書籍を始め、先日の大震災後の政府の方向性も不透明、特に文科省の対応にはただただ溜め息ばかりです。資源のない日本で高等教育に力を入れずして、世界を相手に頭脳立国たり得るのか、と憂えております。書店業というのは知的産業だと自負しておりますが、新刊書店で現状を維持するには相当大変で、元気がますますなくなっているように思います。それに比べ、まだ古書業界にはまだまだ可能性が充分に残されていると考えておりますので、本日はいろいろ助言をいただきたいと思います。
- 新田
- 私たちのＣＨＩ連合に、図書館流通センター（以下、ＴＲＣ）という成長著しい会社があります。古書店さんもそうだと思いますが、通常、図書館に本を売りたい場合には、目録やＨＰで本を見てもらってから買ってください、お店に来てください、と営業されていると思います。これでは予算状況に左右されるばかりか、営業合戦で足の引っ張り合いになってしまいます。そこをＴＲＣは「経費が二割減らせますよ」と斬り込んでいくわけです。通常、書籍の購入はあの書店さん、掃除はあの業者に、と、業務毎にそれぞれ契約を結んでいると思いますが、ＴＲＣの場合、一社と契約するだけで仕入から人材派遣、設備維持メンテナンス、と、図書館運営に関わる全てを引き受けてもらえ、且つ経費削減もできる。図書館側にとっては大きなメリットだと思います。これは「ＲＯＯＴＳ」という図書館業務のアウトソーシング・サービスで、ＴＲＣと丸善の業務提携により開始されました。個々に提供していたサービスを統合することで、図書館業務の効率化と利用者のサービス向上が図られます。ですから、営業に出かけると司書ではなく、経理や管財といった事務方の責任者が興味を示して対応にあたってくださいますね。こうした方法で全国の公共図書館をほぼ網羅したと言っても過言ではないでしょう。雄松堂書店も丸善ＣＨＩ連合の一員として主に専門洋書を担当しています。その他、本に関する研究所創設をＣＨＩ連合に今働きかけています。例えば、現在、除菌装置を開発しています。図書館や、そこで働く人々の地位向上の為に開催している「図書館総合展」で、アンケートを取ったことがきっかけです。公共図書館に子供連れの来場者が減っている、というので意見を聞いたところ「古本は汚いイメージがあるから子供にあまり触らせたくない。だから古本屋にも行かない」という回答があったそうです。ならば、すべての本を除菌して「古本はキレイです」といえる様にしよう、となりました。厨房やレストランなどの飲食業、食品製造業の現場で使用されていた除菌装置を図書館向けに応用できないか、現在この雄松堂書店内でも試験運用しています。除菌装置をはじめ、装丁やデジタル化、ブックオンデマンド、脱酸など、研究成果をグループで共有することの意義は大変大きいと考えています。
- 小沼
- 確かに、一経営者として「経費が二割減らせます」と、切り出されたら非常に興味をもちますね。
- 新田
- ある古書店がグループ会社への参加を打診されたこともあったそうですよ。ただし、一点一点コンディションによって価格が異なるという古書特有の理由もあり、総合サービスとして提供するのは難しく実現には到らなかったそうです。古書業界にとっては問題なのは、図書館がＴＲＣと契約を結ぶとそれ以外の予算がつきにくくなり、古書を買うところまでまわってこなくなります。そうなると人脈に頼る、といった小さなつながりしか残らなくなりますが、それすらも予算によって大きく影響を受けますからかなり厳しいと言わざるを得ないでしょう。 ＣＨＩ連合が目指しているのは、図書館全体が今より少ない経費で今と同じくらいの本が買えるようにすること。また、同じ予算ならもっと買えるようにする。総合的なサービスを向上させ、仕入の協力によって原価を下げていく。図書館業務とは別に、書籍販売の現場においても、同じ事が言えます。これによりネットの販売価格も一割ほど安くなります。そうなると今度はアマゾンとの競争にさらされることになりました。すなわち、このＣＨＩ連合は、アマゾンに対する日本仕様での対抗措置なのです。
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