理事長がゆく

「古本屋らしい古本屋」になろう 株式会社雄松堂書店 代表取締役会長 新田満夫氏

 
古本屋の真髄
新田
今から十年ほど前、雄松堂書店の規模を縮小して、小さな洋古書専門店にしてしまおうか、と考えた時期がありました。その一方では、海外の業者が売り込みの為にドンドン来日するようになり企業家として、他店と何が違うのか興味が湧き質問してみました。普通、海外から業者が本を売りに来たら、買う側の日本の業者をお客と見なし、日本の業者達も自身を客だと思う。だから、当たり前のようにお客の立場で接する訳です。でも私はその逆だと思って昔も今も接してきました。彼らから本を売ってもらって、初めて自分のお店でよい商売が出来る。売ってもらう、買わせてもらうというスタンスは当時も今も変わりません。先輩方から「出版も古書も全て買い七売り三」が商売の基本だ、と教わりました。上手に買えば商売は成功する。一時、戦後のアメリカ式マーケティングが広まり、「買い三売り七」で、売りの上手な人間がもてはやされた時期もありましたが、それでも私は、上手に買うことが商売の根源だと思っています。
小沼
 それはまさに古本屋の真髄ですね。
新田
その商売の真髄の中で育ち、国内外問わずその精神を貫いてきました。それが受け入れられたのでしょうか。日本に来てまっすぐに雄松堂書店を尋ねてきて下さったお客さんは、うれしいので夕食までご馳走してしまいますが、逆に、二軒目、三軒目の人はお昼しかご招待しないとか。そうすると、「新田さんにご馳走になりたかったら、まず雄松堂書店へ行きなさい」なんて、向こうでも広がるのですね(笑)。
新田
ところで、反町茂雄さん(弘文荘)や村口四郎さん(村口書房)といえば、古書業界では一目も二目もおかれる存在です。この方々は日本の書籍文化に多大な貢献をされたと思っているのですが、不思議と叙勲の対象にならないのが不思議ですね。当局に訴えたこともあるのですが、「本屋さんが本を売っているだけでは叙勲の対象にはならない」と言われて悔しかったのを覚えています。だからどうでしょう、古書籍商業協同組合とは別に社団法人なり、任意団体をつくってみては。その団体が古本文化の啓蒙や、図書館との関係作り、著作権の問題、本の保存方法について研究し、セミナーを開催すればいいのではないでしょうか。先の大震災のような時は、その財団が本を寄付するなどの活動を行えばいいと思います。例えばそこの理事長を二期やったら叙勲の申請をするとか。いずれにせよ、古書組合もこれだけの規模で活動しているのであれば、協同組合とは別つくった団体が広く公共に訴えるような活動をして社会的知名度を上げるのもよし、また「自分たちはそういった組織や考えには縛られない。それが古本屋の生き様だろう」と信じているのであれば、理事長が組合員さんにそう宣言すればよいと思います。
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