二年連続売上増
新しいもの好き
育った時代の本を中心に
ひとつの古書展を通じて
大阪モダン古書展より
 

新しいもの好き

東京・金井書店 花井 敏夫

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 その昔、ソニーから高性能ポータブル計算機が発売されていた。電子そろばんと言われた時代である。古書通信誌位の大きさで、縦横の計算もできるメモリー付、一六桁の当時としては画期的な製品で、欲しくてたまらなかった。価格は七万円弱かと記憶している。販売店も少なく、探し当てて買い求めた。同等の性能を持つ電卓は、今なら千円程度である。

 古書業界にお世話になったのが二〇歳頃、とても多くの方々に可愛がられた。金井一雄の孫として、花井由松の息子として。おかげで、小遣い稼ぎもタップリとさせていただいた。例えば、目録用の写真撮影。チョットだけ、撮影技術を学んでいたことがとても役に立ったのである。古書展の準備や片付けなどにも良く出掛けた。  このお小遣いをコツコツ貯めては、新しいものを買う資金にしたのである。新製品が出るとカタログを集め、眺めてはその性能をチェックした。レンズ一本買うにしても、ニッコールクラブに所属していた関係から、三木淳先生に相談しながら購入した想い出がある。親身に相手してもらえたことの有り難さは後年にしみじみ感じ、感謝一杯である。  一〇〇インチプロジェクター、VHSビデオカメラは買ったもののあまり使わなかった。  パソコンはPC9801(NEC)を八〇年代半ばには使っていた。早いほうだろう。ホームページは九七年からスタートしている。携帯電話は一八年を超えた。

  さあ、話題を本業のことに移そう。  この新しいもの好きが、八重洲出店への原動力であったのかと思う。スーパーダイエーの出張販売で「人の集まるところなら古本は売れる!」と確信し、新宿駅周辺への出店を目指したが、その当時急成長した日本初の貸しレコード店「黎紅堂」に出店競争で破れたり、門前払いを受けたりと出店先が決まらず時間が経過した。釣り好きで、釣りの本を集めていた懇意のお客様が不動産仲介をしており、この方のネットワークが功を奏し、昭和五八年、八重洲への出店が決定した。  業界に入って一二年、自分なりの古書店像を描き具現化し、今日に至る出発点であった。幸いなことに、古本が売れている時代で少しの努力が大きな果実となった。

 自店の位置づけは…新規顧客の獲得が最大の使命で、買取が二番目である。自店が繁栄して欲しいと考えるのは誰も同じで、品揃えやサービス、立地で各々努力するのだが、業界としてのパイ(顧客)が大きくないと各自の努力効果が減少してしまう。パイを大きくするのは一軒一軒の古書店であり、自店のお客様が古書の世界に興味を持ち、他店を利用するようになればよいし、業界により良い商品が環流するよう仕入にも努力することが肝要であろう。  R.S.Booksと八重洲古書館で頑張っていることは…まず、入りやすい店づくり。ショッピングセンターに相応しいファサードと内装、店内の見やすさに配慮して、更に、チョット個性的な設計で魅力アップ。陳列は面出しを多用して引きつけポイントを増やしている。そして、何より重要なのが、接客。専門的な古書関連の質問よりも、それこそ、道案内から始まる。初めて立ち寄る方、初めてお買上になる方、リピーターとなっていただくには第一印象が大事。SC協会が掲げる「もう一度この人に接客して欲しい」と思われるようなお客様にとって満足・感動を与える接客を目指したい。ポイントは「好感度・コミュニケーション力・販売力」であり、売買共に影響力は大きい。その延長線上に顧客獲得による業績アップが見込めるのだろう。  全国の古書店が毎月一〇人の新たなお客様と接すると、年間一二〇人、全国では二七万人になる。その一割がリピーターになれば、二万人以上の購買力がアップする。新古書店の成長ぶりを見ていると充分考えられることであり、こういったことを意識することから何かが生まれるのだろう。

 古書業界は、「商品」に多大な投資をして、本と専門知識が財産であったが、近年はその評価が相対的に下がっている。価値観が変わってきているのだ。古書店は特別なものではなく、一般的なものであるべきなので、不特定多数の顧客のもとへ我々が出向く、近づく努力、投資が必要なのだと思う。販売ツール「日本の古本屋」はその一例である。次は、仕入にかかわる流通ツール。古書店が都市部に集中すると全体として集荷能力が落ちると思うが如何だろう?  品揃えや工夫された展示が好評の青山ブックセンターでさえ自立できない現実、古書店も元気になれない現実、だから、業界として新たなビジネスモデル構築が必要なのだろう。新古書店は昨今の出版事情に左右されるだろうが、我々の取り扱う書物たちはまったく次元が違い、工夫次第で愉しい商いができることであろう。

 異業種のオーソドックスな販売、宣伝手法が自店にとっては新鮮であったり、真似することで新たな窓が開いたりしている。常識破りが受け入れてもらうきっかけとなる時代かもしれない。ファンづくり、古書人口増加を大きな目標にしたら如何だろう。  私の思考回路は古書業界に馴染まぬ点が多く、独自な道を歩んでいるが、内外で大きな石を動かすきっかけに幾度となく遭遇したのはよい経験であった。頂戴した様々な知識や経験を生かして、賑わいを確かなものにしたい。  古書業界に、新風とともに賑わいが増すことを祈念したい。



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