理事長がゆく

デジタル時代の書籍と古書 国立国会図書館 館長 長尾真さん

東京古書組合 理事長 小沼良成
小沼
私たち東京古書組合では新たな広報手段として、「日本の古本屋かべ新聞」を作成し、来年1月から全国古書籍商組 合連合会に加盟している約2200の古書店、また図書館などに配布することと致しました。組合活動や全国各地で行われている古書に関するイベントを宣伝すること、そして私たちが運営している「日本の古本屋」「東京の古本屋」をもっと知ってもらうことが狙いです。その目玉企画として「理事長がゆく」と題し、私が出版業界に限らず様々な分野の方々とお会いして古本屋に対する率直なご意見を承り、ご一緒に新しい試みを始められたらと考えているのですが、その記念すべき第一回目は、4月に開催致しました「日本の古本屋シンポジウム」でも大変お世話になりました長尾先生に是非お話を伺いたいと決めていました。ご多忙のところ、お時間を頂き大変感謝しております。今日はどうぞ宜しくお願い致します。
先日、東京古書組合で行われている市会の一つである「東京古典会」の大市会が開催されました。今年は、例年になく盛況でしたが、その背景には中国経済の拡大があります。つまり経済力のある中国人が日本にある中国書を次々に買っていくという状況があるわけで、私たちは中国に足を向けて眠れないような具合です(笑)。けれども、せっかく自分たちが所有している文化財を外国にいとも容易く奪われてしまっているようで、「本当にこれで良いのだろうか」という不安もあります。決して経済力がないわけではないのに、日本の文化に対する関心の薄さはどうも気になる。アメリカではボストン美術館(Museum of Fine Arts, Boston)の増改築費用が寄付だけで500万ドルも集まったりするけれど、そんな話はついぞ聞いたことがありません。
国立国会図書館長 長尾 真
長尾
はっきり言って「文化」ということに関しては、本当にダメな国になってしまったと思います。企業のトップに話を聞いても「株主が怖くてそんなものに金を出せない」などと言うのだから困ったものです。政府も何かにつけて「経済」という言葉を強調するけれど、もっと「文化」に対してしっかりと働きかけるべきです。それに比べてフランスは実にしっかりしていて、政府自ら「Googleの軍門に下ってはいけない」とスローガンを掲げて国立図書館のデジタル化に1000億円の資金を投じるというのですから、価値観がまるで異なっていますよね。
小沼
1000億円ですか!日本の127億円とはまるで規模が違いますね……。しかし、そういったニュースは日本では報道されないのですね。アメリカのことは多少分かっても、ヨーロッパの事情については全く届かない。
長尾
正確に調べたわけではありませんが、その1000億円のうち20%はデジタル化によって影響を被る出版業界に対して支払われるそうです。
小沼
デジタル化に伴う社会構造の変化に対しても、計画の中で抜かりなく対策を講じているわけですね。
長尾
韓国でもデジタル化したデータを公共図書館へ配布するということから、フランスほどでの額ではないけれども、やはり同じような対応を取るようです。日本の場合は現状だとデジタル化を進めても国会図書館に来なければ閲覧できませんから、それほどメリットはありません。
小沼
日本が同じような立ち位置につくにはどれほど時間がかかるのでしょうか。
長尾
先程も言ったように、政府が文化政策として出版界や図書館に対してどこまで本気になってくれるかということにかかっています。この国の経済レベルからすれば、それほど困難なことではないはずですが……。
小沼
人を育てるのと同じように、文化もお金と時間をかけなければ成熟しませんよね。
長尾
東京国立近代美術館のフィルムセンターは4万本以上の映画フィルムを所蔵していますが、それでもまだ十分集まっていないそうです。会社が無くなってしまったりして所有権の定かではなくなった古い映画フィルムの原盤が、色々なところでほったらかしになっているんです。そういったものに加えて最近では、放映が終われば捨てられていたテレビや舞台などの台本も価値が見直されています。国も収集の必要性を認めており、私もお手伝いをしているのですが、なんと言っても予算が不足している。再三繰り返しますが、文化全体に対して本気で考えてもらわなければ、貴重なものも結局は散逸してしまうでしょう。
小沼
日本でも韓国のように、国会図書館でデジタル化されたものを公共図書館で閲覧できるようにはならないのでしょうか。
長尾
現状では非常に難しいと言わざるを得ません。著作権法を改正して頂いて、国会図書館に限っては保存を目的にデジタル化しても構わないことになりましたが、それ以上については著作権者から徹底的に反対されています。
国会図書館は公共図書館からの要求があれば資料を貸し出しています。もし書籍のデジタル化が完了して紙の本は全て書庫にしまった場合、同じように公共図書館から資料を求められたとしたら、やはりデジタル化したものを貸し出さないわけにはいかないでしょう。その様な想定も踏まえて出版社や著作者と協議しているのですが、ほとんど了解を得られません。どうしても手に入らない資料に限っては電子的な貸与が認められるようになるかもしれませんが、現段階では何とも言えない。
小沼
政治的な決断が為されないと難しいということですね。
長尾
ただ日本ではフランスや韓国のようにデジタル化によって影響を余儀なくされる立場に対しての予算立てが成されていませんから、かなり厳しいでしょう。本当に世界から遅れています。
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