理事長がゆく

デジタル時代の書籍と古書 国立国会図書館 館長 長尾真さん

小沼
横浜市立図書館の協力で「都市横浜の記憶」というデジタルデータが国立国会図書館アーカイブポータル(PORTA)で今月の15日から検索利用できるようになったとのことですが、そうした公共図書館のデータを相互に検索しあうという動きは他にも見られますか。
長尾
そういったものはすべて著作権が切れています。公共図書館でも例えば岡山県立図書館や富山県立図書館のように、その地域の古文書や文化財をデジタル化して配信しているところはいくつかあり、また岩手県立図書館でもこれから取り組もうと意欲を持っているなど徐々に増えています。そのようなデータを国会図書館の検索を通じて全国配信する可能性はあります。ただしあくまで著作権が切れているものに限るでしょう。
小沼
やはり「著作権」が重要になるのですね。
長尾
権利者にとってはどうしても譲ることができないもののようです。
小沼
しかしGoogleは著作者の権利よりも、利用者の利益を優先するという形で動いていますよね。
長尾
アメリカの著作権法には「フェアユース」がありますから。公正な利用であれば、著作権侵害にはならないという規定です。Googleはフェアユースの範囲内でやっているという論理で堂々とデジタル化を進めているわけです。
小沼
同じような動きが日本で起きないのでしょうか。
長尾
そもそもフェアユースがありませんからね。詳しいことは分かりませんが、文化審議会著作権分科会では日本でもフェアユースを導入すべきだと試案を出しているようです。けれども猛烈な反対意見があるようで。
小沼
お話を聞く限りでは、著作権に関する突破口はどこにもないようですね。
長尾
そうですね(笑)。私は二年前から「結局はお金で解決するしかない、権利者に対して相応の対価を払っていくビジネスモデルを作るしかない」と言っています。そうした方向でデジタル化を活性化させた方が出版業界も盛り上がるし、読書層のためにもなると思うのですが、どうも誤解されてしまう。「安い値段で読まれてしまえば出版社はつぶれてしまう」と総スカンを食らって。
***
小沼
先日、ミシガン大学アジア図書館のキュレーターである仁木賢司さんの講演を聞いたのですが、アメリカの大学図書館は日本ではとても考えられないような先進的な取り組みをしているのですね。
長尾
Hathi Trustですね。ミシガン大学やハーバード大学、コロンビア大学といったアメリカの主要大学図書館、最近では連邦議会図書館も加わりましたが、要するに各々が所蔵している書物をデジタル化して共有のデータベースに入れてしまうんです。そうしたデジタルリポジトリに現在では50以上の図書館が参加しているそうですが、誰でも利用可能になっていますから、形態としてはまさしくフェアユースということになります。
小沼
仁木さんのお話ではミシガン大学では日本書もかなり所蔵していて、すでに80万冊がデジタル化されているそうです。それを考えると、日本で著作権の話をしている間に外国からデジタル化されたものがやってきてしまう可能性がありますよね。
長尾
今年はGoogleブック検索がかなり問題になり、日本では激しい反発が起こりましたが、しかし反対ばかりしていてもこの大きな波には結局勝てないと思います。ならば日本の書物に関してはもっとこちらから積極的にデジタル化を進めて、お互いが利益を得るWin-Winになるようなビジネスモデルを作るべきです。図書館へ行く交通費の値段程度で誰でも自分の家から自由に本が読めるようにし、その対価を出版社や著作権者に還元する。そういった形なら作れるはずですが、どうも簡単には納得してもらえない。
小沼
著作権の問題以外に、長尾先生の構想にはどのような反対があるのでしょうか。
長尾
正直よく分からない部分もあります。私は長い間大学にいましたので、後先考えず気楽に発言していると受けとられているのかもしれません。私は個人的にお話ししたようなビジネスモデルを考えているのですが、もちろん国会図書館長という立場もありますので、出版業界に押しつけているようなイメージもあるのでしょうか。多くの人々は私の提案するようなビジネスモデルが本当に可能なのかと疑問視しているのだと思います。ですから私も二、三年かけて実験する必要があると繰り返し言っています。そして「これならできる!」というモデルを少しずつ作りあげていく。出版業界でも大手の中には「こういうモデルもあり得るな」と関心を持ってくれる人もいます。しかし出版に関わる人は大勢いますし、ほとんどは新しいモデルを理解することよりも心配が先に立って反対してしまうのではないでしょうか。
小沼
私たちは出版社よりもずっと零細ですからね(笑)。自宅から色々な書籍データが見られるようになると古本屋が必要なくなるのではないかという危機感があります。対応を考えようにも現在のような道筋が見えない状態では、ただ困惑するばかりです。
長尾
あと二年ぐらいすれば、かなり鮮明なパースペクティブを得られると思います。日本でも大手印刷会社などいくつかの企業は既に電子出版物の流通プラットフォームを提案しています。そういった動きに触発され、出版界全体が勉強をすれば考え方はきっと変わる。今だって一年前から比べたらずいぶんと変化していますよね。そういった意味でもやはり時間をかけないといけません。
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