世界、特にヨーロッパと日本では芸術や伝統に対する価値観が圧倒的に違いますよね。例えばフランスには国家が定めたMeilleur Ouvrier de France(国家最優秀職人章)という称号がありますし、オーストリアには国が公認する「マイスター制度」が整えられていて、職人たちはその資格を得ることを一つの目標とします。日本にはこうした文化の担い手である職人の地位向上や、伝統的な技術を未来に残そうとする意識が大変希薄だと思います。しかも政治家や官僚の利権に絡むところには予算をつぎ込むのに文化的な部分に関してはとても疎かだから、その希薄な意識を変えるような機会に遭遇しにくい社会になってしまっています。先ほど小沼理事長が仰っていた、127億円と1000億円の違いも、フランスはそれだけの予算を投じることによって単に文化が守られるということだけではなしに、今までに無い価値の創造や観光誘致への期待まで念頭に置いているはずです。
僕は石川県七尾市で生まれました。七尾市の一本杉町には「花嫁のれん」という風習が伝えられています。花嫁が嫁入りの時にのれんを持参し嫁ぎ先の仏間の入口に掛け、結婚式の朝に花嫁はそののれんをくぐってご仏前にお参りをする。そういったことが明治期頃まではあったらしいのですが、一本杉町で商売をしている人ならばその風習について語れなければならない。もちろん地域産業の活性化ということもありますが、それ以上に私たちには「歴史を語り伝える」という大切な役割があります。フランスはそうしたことに国家レベルで力を入れていますよね。新たな文化を創出しながらもこれまでの伝統を重んじる。町の景観を損なわないようしっかりと管理し、ファッションや食を連動させながら一つの事業として取り組んでいる。日本にはそういう発想がありません。