理事長がゆく

アカデミックリソースガイド 岡本真さん numabooks代表 ブックコーディネーター内沼晋太郎さん

小沼
この8月に、2期4年勤めた理事長の任期が終了します。おふた方には要所要所で大変お世話になりました。 まず、岡本真さん。2010年4月に国立情報学研究所一橋記念講堂で開催したシンポジウム「滅亡か復権か―大規模デジタル化時代と本の可能性―」の運営をすべてとり仕切っていただきました。折しも「電子書籍元年」と騒がれ、グーグルブック検索の問題や、各種電子ブックリーダーの発売など、本の在り方に関心が高まっていた最中の開催とあって、大きな反響をもって取り上げられました。岡本さんのご尽力のおかげです。そして、内沼晋太郎さん。東京古書組合初の海外視察となった2011年6月の韓国パジュ出版都市への取材に同行いただきました。古本屋とは異なる目線からのリポートを広報誌へも寄稿していただきました。改めておふた方へ御礼申しあげます。 さて、今回は理事長がゆく最終回として、組合との関わりも深いおふたりをお招きし、今後の古書組合の方向性、将来についてアドバイスを頂きたいと思います。
小沼
この8月に、2期4年勤めた理事長の任期が終了します。おふた方には要所要所で大変お世話になりました。 まず、岡本真さん。2010年4月に国立情報学研究所一橋記念講堂で開催したシンポジウム「滅亡か復権か―大規模デジタル化時代と本の可能性―」の運営をすべてとり仕切っていただきました。折しも「電子書籍元年」と騒がれ、グーグルブック検索の問題や、各種電子ブックリーダーの発売など、本の在り方に関心が高まっていた最中の開催とあって、大きな反響をもって取り上げられました。岡本さんのご尽力のおかげです。そして、内沼晋太郎さん。東京古書組合初の海外視察となった2011年6月の韓国パジュ出版都市への取材に同行いただきました。古本屋とは異なる目線からのリポートを広報誌へも寄稿していただきました。改めておふた方へ御礼申しあげます。 さて、今回は理事長がゆく最終回として、組合との関わりも深いおふたりをお招きし、今後の古書組合の方向性、将来についてアドバイスを頂きたいと思います。
岡本
まあ、「そんなものかな」というところでしょうか。5年くらい前ならば、新刊、電子書籍、国会図書館も含め、統一的なIDを整備しようという議論ができることすら想像しなかったことです。むしろ着実に動いてきているのではないでしょうか。
小沼
すると、あと5年くらい先には実現する可能性がありえる、ということですか。
岡本
国会図書館が書誌データをオープンにしたり、NIIの提供するCiNii(サイニィ・論文や図書・雑誌などの学術情報で検索できるデータベース・サービス)など基盤が整ってきたのは非常に感じますね。私が編集者をしていた15年ほど前はbooks.or.jp(国内で発行され、現在入手可能な書籍を収録する書籍検索サイト)が出来ただけでも大きな話題になっていましたから、その時代に比べたらだいぶ探しやすくなりました。 ただ、「日本の古本屋」が持っているポテンシャルを十二分にいかしきれていない、というのは難しいところだとは思います。シンポジウムの時に古書業界の方といろいろと話をした中で、意外とペイパル導入が進んでいるなど驚かされたこともありました。ですが、組合として、参加古書店の中に広がっている格差を埋めるためのインフラ整備がどの位できるのか、など課題は残っています。それでも日本中の古書店から、オンラインで古本が買えるなんて、なかなか結構な事だと思いますよ。
小沼
そうですね。ですが、立ち上げから十数年、そろそろそれ以上の事もぼつぼつ出来るはずだと思っているのですが。 今回の理事会では、携帯で古書の市場を運営しよう、ということで4月にデジタル入札会を開催しました。今までの古書市場では、入札者は希望金額が書かれた紙を商品に付けられた封筒へ入れていき、係員がその結果を調べるという方法でした。そこで新たに専用アプリを開発し、iPodタッチや、組合内の情報交換に使っているエクストラネットを通じて出品・入札をおこないました。これにより落札結果も瞬時にわかるようになるなど、ある程度の実地検証は済ませました。このシステムを全国の古書組合にオファーしようと理事会で決定はしましたが、その使用をあくまで組合員間の市場のみに限定するのか、それとも業者対一般ユーザーまで広げるのか、具体的な活用方法ははっきり決まっていません。とくに組合員は、市場の落札結果がこのシステム内で公開されてしまうことに拒否感があるので計画も頓挫しています。いずれにしても、デジタル入札の土台はできあがっていますので、その活用方法について何かよいアイデアはないでしょうか。
内沼
そもそも市場の仕組みをデジタル化しよう、とお考えになったのは、落札結果が瞬時にわかるようになることが目的だったのでしょうか。
小沼
いえ、そうではなく、市場の運営に人出がかかってしまうことと、そしてその人員確保が難しくなってきたことです。将来的にはもっと難しくなるかもしれません。今のうちに、市場の運営にデジタル要素を整備しておけば、その負担を軽減することが出来ると考えています。出品者が会場まで商品を持ち寄るのではなく、各自でネットに登録しておく。現に「日本の古本屋」の参加店は、ネット上に在庫を登録し、画像を添付する作業もなんなくこなしています。市場においても同じ事が出来ると考えます。まだ色々な問題はありますが、10年から15年くらいの長いスパンで考えれば、世代も交代し、機器も進化してくるだろうと思っています。
岡本
比較の問題ではないと思いますが、ユーズドの物を売っていると考えれば、世の中セカンドハンドだからこそ価値をもつモノがあると思います。上から目線のように聞こえてしまいますが、なかなか健闘されている方ではないでしょうか。サザビーズやクリスティーズのような世界的なオークションでは、当たり前のようにネットで注文があり、落札者もわからなくなっている仕組みが完全に出来上がっている。そういう世界がある一方、そうではないところもたくさんあります。最近、オフィス用品を揃える必要があって、中古の品をネットで探していたのですが、価格を比較検討するのに不自由しました。いっそヤフオクの方が便利かも、と思うくらい、デジタル化の波は意外ときていなかった。他業種の中古市場でも、うまくデジタルを使う、使いこなすという環境が整っていないところはまだ多いのかもしれませんね。
小沼
それでは、組合のデジタル入札の仕組みも、パッケージソフトとして売ったらいいですかね(笑)
岡本
可能性はあるでしょうね。
内沼
組合でお使いのものがどういうものなのかは具体的にわかりませんし、ものによって性質は全然違うので一概には言えませんが、オークションシステムなら、パッケージで売れるような気はしますね。岡本さんが仰いましたが、「日本の古本屋」の機能自体は進んでいると言えば進んでいます。ですが、普段古本屋へあまり行かないな、という人も含めて、サイトを使ってもらう為の広報やブランディングはもっと必要だと思います。 例えば僕もそうですが、アマゾンで買った本を転売する人は結構いると思います。そのサイトしか使わない人にとって、そこでの価格や在庫状況がすべてになってしまう。たまにものすごい金額のついた本がありますが、そのサイトには在庫が少ないだけで「日本の古本屋」をみたら、実はもっとたくさんの在庫が存在していて、適正と思われる価格がついていた。そういったことがもっと普通の人に知られていけば、ちょっと買うのは面倒だけれど、欲しい物が安く買えればそれにこしたことはないと思います。クレジットカードが使えるところ、使えないところというように、その古書店によって出来ること出来ないことがあるのは、協同組合という組織が運営している以上、ある意味仕方がないことだと思います。そこはあきらめるとしても、その代わりサイト自体の使いやすさを向上させ、広報に力を入れ、使ってもらう人を増やしていけば売上増加も見込めると思います
小沼
そうですね。この4,5年ほとんど変化しない売上も変えられるかもしれませんね。
内沼
変わらない、ということはある意味すごいことですよね。
岡本
そうですね、安定している、ということですから。オンライン通販というと、アマゾンや楽天のイメージが強いと思いますが、最近の中堅eコマースの特徴として、ある分野の嗜好品に対し専門店がきちんと形成され、一定のユーザーから支持を集めていることが挙げられます。それくらいオンライン通販自体が成熟し、利用者が集まっているということです。「日本の古本屋」がアマゾンとバッティングするか、というと、それは違うと思います。アマゾンで買えるセカンドハンドの本には、ある種の傾向があるかもしれません。以前、ある本の復刊運動をするのに必要な本を「日本の古本屋」から7冊くらい買ったことがありました。アマゾンに在庫がなかった為です。価格を比べると「日本の古本屋」の方がちょっと高いかもしれませんが、確実に手に入るということは明白でしたし、消費財としての使い分けをする事は悪くないと思います。また本は、プレゼントとしても最適なアイテムになり得ますから、そういう価値観を持って使おうとすれば伸びる部分はありますし、棲み分けは充分できると思います。
理事長がゆく(1/3)ページのトップヘ戻る

SEARCH 古本屋を探す

INFORMATION 即売会最新情報

東京の古本屋 | 東京古書組合ホーム > 理事長がゆく(1/4)

  • BOOK TOWN じんぼう
  • あなたの街の古本屋
  • 東京古書組合 東部支部
  • 文京の古本屋
  • 東京古書組合 中央線支部