理事長がゆく

「アカデミックリソースガイド 岡本真さん numabooks代表 ブックコーディネーター内沼晋太郎さん

内沼
図書館といえば、最近話題の佐賀県武雄市の武雄図書館とツタヤさん、何か突き破られそうな感じはしますよね。絶対に新刊の本を売るようになるんじゃないでしょうか。いろいろ今は大変でしょうけれど、そこを通り抜けてさえくれれば、「あそこがやっているからいいんじゃないか」という空気に変わっていくような気がします。そのあとにひょっとしたら、図書館に隣接したスペースで古本市を開催することもできないことはないんじゃないでしょうか。その提案が、市民に本の楽しさをわかってもらう為のものです、と言えるような、きちんと理に適っているものであれば、法律でやってはいけないことではないと思うんですよね。なし崩しというわけではありませんが、規制もどんどんゆるくなっていくんじゃないかなと思います。そうでなければ、図書館側も人を集めるパワーというか、その装置として弱くなってしまう気がします。モノが買えるってすごくエンターテイメントなことじゃないですか、普通の人にとって。
小沼
買うということはエンターテイメントになりますか!?
内沼
充分なると思います。楽天のキャッチコピーに、「ショッピング イズ エンターテイメント」というものがあります。僕もその通りだと思います。美術館に行っても最後はミュージアムショップに寄りますよね。展示会でもそうですが、珍しい物が見られる、新しい物が見られることも楽しいけれど、やっぱり一番盛り上がるのは買えるエリアだと思います。図書館にしても、借りられるエリアと買えるエリアが共存することが図書館そのものの利用を促すことに、なんらバッティングはしないと思います。
小沼
そうなると「日本の古本屋」もエンターテイメントだという概念で考えはじめた方がよいのでしょうか。
内沼
そうですね。このサイトを回遊することが1つのエンターテイメントだという様に、楽しめる感じへ持って行ければいいですね。
小沼
2010年に一橋記念講堂でおこなったシンポジウムの前に、組合員向けの講演会を行い、当時千葉大学の土屋俊先生にお話をしていただきました。その中で、本はどんどんデジタル化して、図書館の建物は空洞しか要らないんだ、ということを言われ、私自身、納得する部分もありましたが、ずいぶん急進的だなと言う感は否めませんでした。現実の話、どういうものが本なのか、ということは色々な方が語るけれど、逆にデジタルって何なのか、ということは誰も語りません。今行われていることは、紙の本の中味をデジタルに移し替えているだけで、その特性などはお構いなしという気がします。数を増やす競争をしているだけで何が面白いんだ、って思いますがいかがでしょうか。
岡本
まぁ、そういうのものは無目的になりがちですが、あえて反論するのであれば、とりあえず物量を増やしたら何かが変わるかも知れない、ということでしょう。国会図書館の蔵書デジタル化も賛否両論ありますが、4,5百万単位でデジタル化されていけば何かが変わる可能性があるわけです。論文の世界は電子化 がかなり進み、入手方法も変化しました。情報工学系の人々は、わざわざ図書館へ行く必要もなくなりました。数が増えれば何かが変わっていく。ですが、そこにどんな意義があるのかを考えすぎると物事は進みません。もちろん何でもかんでもデジタル化一色になることに対する懸念はもっています。ですがそのくらい勢いがないと進まないのです。
小沼
そうなると、そこにエンターテイメントは起こりえるのでしょうか。
岡本
起こると思います。ですがそれをつくる人は別々でしょう。出版界の人には辛い意見になりますが、現在の書籍電子化の流れの中で、彼らが面白い物を作れるかというと、きっと出来ないと思います。ですが、別の人達が編集行為を加えていくことはあり得るでしょう。例えばウィキペディアは、知るということは楽しいことなんだ、ということを実現している。従来の紙の百科事典にはなかったことです。それを作ってきた人達とは別の人達が、こうしたほうが楽しい、こんな風にしたらいいのに、という楽しみを発見して今の隆盛があるわけです。ですが、それはあくまでも紙の百科事典の歴史、蓄積されたものがあってこそ生まれた知的エンターテイメントです。人間やっぱり知的興奮が一番楽しいことで、人を突き動かす原動力に成り得ると思います。環境が整えば、そういうあくなき追求をする人々がたくさん出てきて、二次的な創作行為を行い、新たなエンターテイメントを生み出していくでしょう。だから私は牧歌的にそっちの楽しみを信じているのです。
小沼
今の社会には、ワーキングプアと呼ばれる人達も多数存在しています。若者にとってリトライできない社会になってしまいました。そういった人達も本を買ってくれるのか、心配ですね。
内沼
実際手元にお金が無ければ買うよりも借りる方が多いでしょうけれど、やっぱり人と本を出会わせる、というか、人々を本好きにする、そういう仕事は絶対に必要だと思います。本全体を盛り上げて、読む人達を増やしていくというのは、業界全体で取り組むべき公共の課題だと思います。僕自身、そういった側面に合うのはやっぱり図書館なんだと思っています。図書館がそれをやってくれると、そして業界がそのサポートをしてあげると図書館にリアルな本がある意味が増すと思います。僕は、人が本を好きになるその過程には、巨大な本棚に囲まれて途方に暮れるという経験が絶対に必要だと信じています。周りの本好きに聞けば、親が本好きで小さなころから身近に本があった、お父さんの本棚がすごく大きかった、図書室に入り浸っては端から端まで読みつくした、という話がたくさん出てくると思います。大人になる過程のどこかでみんなでっかい本棚に囲まれては「あぁ世界ってなんてでっかいんだろう」「知りたいこと、知らなきゃいけないことって山ほどあるな」っていう体験をしていると思います。でも、町から本屋さんが消えていき、みんなが電子端末で本を読むような状況になったとき、物理的にでかい本棚の前で途方に暮れる経験をする場所が子供たちに無くなってしまいます。目の前にぎっしりと本の詰まった大きな本棚があって、それは高くて横にも広くて、自分を取り囲むように存在している。そんな経験ができる場所、無くならない場所があるとすれば、それは公共図書館ではないでしょうか。もしかしたら、公共図書館とは興味のない子が行く場所にしなければならなくて、そういう準備を業界全体で作らなきゃいけないんだと思います。
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