理事長がゆく

アカデミックリソースガイド 岡本真さん numabooks代表 ブックコーディネーター内沼晋太郎さん

小沼
そうかもしれませんね。以前私が理事を務めた17、8年前はブックオフが出現した頃でした。出店の勢いには目を見張るものがあり、「これで古本屋も終わりなのか」と覚悟したくらいでした。とくにバーゲンブックを扱う古書店、郊外の駅前に店舗を構えていた古書店にとっては大打撃でしたから。ですが、今はどうでしょう、きれいさを求める為に小口を研磨した本を扱う古書店と、そうではない古書店とで棲み分けが成されてきたように思います。きっとアマゾンともそういう風になれると思いますが、その違いをはっきりプレゼンできないもどかしさがあります。アプローチの仕方がわからないのです。内沼さん、何かよいお知恵はないでしょうか。
内沼
先ほどの岡本さんのお話に、プレゼントの話がでましたが、「日本の古本屋」にもギフト包装サービスはあるのでしょうか。
小沼
サイト自体のサービスにはありません。個々の店舗で対応しているくらいではないでしょうか。組合としては発送部材の販売や、郵便料金が割引になるサービスを提供するくらいで、それも利用するかどうかは古書店の判断にまかせています。
内沼
 そうすると、古書店さんに対して、もっとお客さまに付加価値を高められるような働きかけは出来そうな気がしますね。個々の古書店さんがそれぞれ対応するとなると、部材の調達にも限度があり、センスの問題も当然出てくると思います。であれば、そういったものを組合としてトータルでディレクションし、まとめて作ることでコストも安く抑えられます。さらに一歩進んで、例えば「日本の古本屋」経由なら装丁を変えられるというのはどうでしょう。今現実にこのサービスを利用したいお客さまがいるかどうかというのは別にして、すごく大事な本があり、このサイトを経由しプラス一万円払えばハードカバーの本を革装丁にしてもらえ、専用の箱に納められた状態で届けてもらえる、とか。なぜこの様な提案をしたかというと、書籍の電子化が今より進んでいけば、紙の本がある程度嗜好品となってしまうのは仕方がないと思います。ですが、紙で大事に取っておきたい本、どなたかに差し上げたい本という側面があれば、古本としての価値はますます上がるように思います。数の少ないもの、流通していない珍しいものという、稀少なモノというジャンルになるのではないでしょうか。今もそういった稀少性や嗜好性の部分を重要視するマニアが存在していますが、これはあくまでも一部の限られた人達だけの話ですよね。 そうではなくて、もっと多くの人々に広げていく為の手段として、ギフト包装をどこかのデザイナーに依頼したり、装丁デザインは人気のあるアパレルブランドと提携してつくったりすると、話題性もありますし、わかりやすいと思います。
小沼
なるほど、そういった発想は今までなかったですね、ブランディングというのですか。
内沼
そうですね。「古本」というジャンルそのものをブランディングするというか、なんらかの価値付けをする必要が あると思います。ただし、一過性のものにならないよう、地に足をつけたムーブメントにしなければいけません。 単に安く読めればいい、何でもいい、ということであれば、他のサイトで買えばいいのです。ですが「日本の古本屋」が他社との差別化を明確にしたいのであれば、もう少し高級感を持たせるとか、ここにしかない付加価値を高めるなど方向性をはっきりする必要があります。そして「他より百円高いけど、こんな素敵な箱に入ってくるならこっちにしよう」と思わせる、バラエティにとんだオプションを用意する。その為にはサイト自体の作りも変える必要があるでしょうね。本の豊かな楽しみ方を可能にする、ソフト部分のアプローチ方法は色々あるような気がします。
小沼
帯付や、初版、といった商品説明には工夫をしますが、装丁仕直す、ギフトアレンジをするという発想は、本を本として売る、という固定概念のようなものに縛られていて業界内からも浮かんでこなかったですね。
岡本
依然として「本」は有効なメディアであり物品であります。内沼さんが指摘されたように「豊かな体験」を提案していくことは必要だと思います。電子書籍には、本を捨てられるという日本の住宅事情を考えたら大きなメリットもあります。ですが、自分にとって大切な何冊かは、より豊かなものとしたいという気持ちはあるのではないでしょうか。例えば、愛蔵版というのがありますね。内容は充分わかっていても、やっぱり好きなものだと買ってしまう。確か「指輪物語」のDVDだったでしょうか、とても立派な革に似せた装丁で愛蔵版が発売され、かなり高価だったにも関わらずヒットしました。それは、「指輪物語」が多くのファンに愛された名作で、さらに、それこそ薄っぺらな廉価版で発売されることの方が好ましくないと感じるほど、その作品世界に魅了されたコアなファンも一定数存在している。豪華な愛蔵版を持つことがファン心理をくすぐり、物語を愛する自分にとって納得感があるのでヒットしたのだと思います。そして、他者との差別化ということは、これからもっと出てくるのではないでしょうか。シンポジウムの時にも、内沼さんのお話しにもありましたが、稀少性が増す、というのはよい側面もあると思います。
*   *   *
小沼
内沼さんの活動のキーワードでもある「本と人との出会い」。われわれ古書業界はこの部分の努力を全然してこなかった。即売会にしても、人を集め、本を並べていれば売れる、というスタイルが慣例のようになって、売る為の営業努力をしてこなかったことは大いに反省すべきことでしょうね。良きにつけ悪きにつけ、売る側も、買いに来られるお客さまも固定化してしまっています。もちろん古書店の全てが努力をしていないということではありませんが。
内沼
駅周辺の催事ならいろんな人がふらっと立ち寄ることもありますが、基本的には同じ古本好きが色んな場所をまわっているだけで、そのパイ自体が増えているわけではない。そこを増やす努力はしていないように感じます。ですが、それは古書店さんに限らず、出版社、取次、新刊書店など、本に関わるみんなが努力しなければいけない部分だと思います。同じ催事をするにしても、例えばファッション性の高い場所で古本市を開催したいのであれば、デザイン書だけに商品を絞る、ファッションアーカイブやヨーロッパのファッションの特集をしますよ、という具合に、その店舗や場所にふさわしいテーマを設けて提案ができれば喜んで開催したい、という所もあるのではないでしょうか。そして、こういうものを買えばいかに世界が広がるのか、本がどうして面白いのか、ということを普通の人に伝えることができれば良いと思います。なので、スタッフもその場所、雰囲気にふさわしい人にお願いするなど、工夫次第でいかようにもなるのではないでしょうか。まずは古本屋に縁のなかった初心者が気軽に立ち寄れて、興味をもってもらえるように作り上げる。その次に実際にお店に来てもらえるようになればいいですね。
小沼
そういう点では、図書館というのは最適な場所のように思えますが。
岡本
愛知県の田原市図書館は、市民から集めた古本をNPOへ売却し、古本市を開催、図書館に寄付された売上が新刊購入資金に充てられるという、ユニークな取り組みを行っています。内沼さんが言われたように、やり方をデザインする、方法を教えてあげればいいんです。法律上、図書館が直接売買することはできません。ですが第三者のNPOをつくり、そこから使途を限定した形で図書館に寄付をしてもらうという仕組みをつくればいいのであって、それが仕掛けなのだと思います。同じように、図書館で古本市をしたいのであれば、福祉的な意味や、古本の価値をどの様に作っていくのか、セカンドハンドの本を売るとはどういう意味を持つのかを理解してもらえるようにワークショップを行うという仕掛けが必要だと思います。確かに、図書館はどちらかというと保守的ですし、伝統墨守的な所が多いかもしれませんが、最近明らかに変わってきています。例えば、「ビブリオバトル」というものをご存じでしょうか。これは、自分の好きな本を制限時間内に語り、投票でチャンプ本(ベスト本)を決めるという知的書評合戦とよばれるイベントです。もともとは京都大学の研究室内でゼミの一環として行われていたものですが、今ではビブリオバトル普及委員会という任意団体もでき、公式HP上ではルールも公開され全国で開かれています。最近では公共図書館のイベントとしても開催されるようになり、それが何の違和感もない、むしろ普通というくらいになりました。このイベントが人と本を繋ぐという効果を生み出し、図書館に新しい文化が育ち始めているのです。古書組合も古本の価値普及を図るのであれば、組合主導でもっと提案できればいいですね。
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