今年の二月、私はロスアンゼルスのブックフェアー初日、開場を 待つ列に並んでいた。いづこも同じ古書即売会初日の風景で、開場の午後二時前にはすでに二百人以上が列をつくっていた。この並んで いる人達を見わたしてみるとほとんどが年配。欧米人は日本人に 比べると老けて見えるとはいえ平均年齢は五十才を下るまい。 昨年六月のロンドンのオリンピアで開催されたABA(英国古書籍商連盟)主催の古書即売会でも、 またもっと一般的な古書が出品されるので人気のあるPBFAのブックフェアーでも訪れる客は高年齢層が多かった。そして行くたびに気になるのは、ここ数年だんだんと来場者が減って活気が無くなってきていることである。世界をとりまく長期の不況のせいばかりではあるまい。古書即売会に来る客層の老齢化が多分にそうさせているように思う。
昨秋日本の古書ファンの高齢化を取り上げたテレビ番組があった。ここには東京の古本まつりで本を漁っている初老の人々ばかりが映し出されていた。こうした番組は編集者の意図でいかようにも作れるので100%信ずるわけにはいかないものの、穿って見れば古書業界は次代の客層が続いておらず未来はなかろうと暗翳を投げかけている。洋の東西ともに事情は同じということらしい。
ところがこの五月、私共京都古書研究会が催した恒例の「春の古書大即売会」ではこんな心配を払拭する活況がみられた。開催の初日、平日にもかかわらず開会の十時前には六百人の人が会場の市営勧業館の外にまで列をつくった。この列には年配の馴染のお客さんに負けぬ数の若い古書ファンが並んでいた。その上この行列は華やかでもある。女性が三〜四割も占めているからであろう。開場するやまたたく間に四十五店が出店した四百坪のフロアーは熱気でムンムンしてきた。この活気と華やかさはゴールデンウィークの五日間の会期中とぎれることはなかった。
三十年前、京都の古書業界の活性を目指して京都の若手古書業界が集まり「古書店経営を研究し、企画し実践する会」を結成した。略して「京都古書研究会」と称した。そこでは古書店主として自己研鑽を積み、古書ファンを獲得するために古本まつりなどのイベントや「京古本や往来」という機関誌の発行などに取り組んだ。そして同時に未来の古書愛好家を育てることも大きな活動の中心にすえた。次代を担う子供達が本好きになってくれるように、この会が催す古本まつりでは児童本を超廉価で提供するコーナーを設けた。またこの売り上げの純益金を公立図書館へ児童図書購入基金として寄付して子供達が本に接する環境を作っていただく応援をしてきた。
三十年前京都古書研究会が初めて設けた児童本コーナーでお母さんに手を引かれて絵本を買ってもらった坊やが、今年の五月の催しには学校の先生になって生徒を連れてやってきた。小さな手に100円玉をにぎりしめて童話を買った女の子が、今は我が子を抱いて絵本を漁っている。会の発足以来の活動の積み重ねによって次代の客が育ってくれ、今また次の世代が芽生えてきている。京都の古書業界の先行きは洋々である。
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